フリーデスクトップ環境の普及促進でKDEとGNOMEが協力Trend Insight

開設後間もないメーリングリストで、ある変革が静かに進行中だ。数年間にわたる誤った敵対関係を覆すこの出来事は、多くのフリーソフトウェアユーザーにとっても大きな意味を持つ。

» 2006年03月07日 10時30分 公開
[Tom-Chance,japan.linux.com]
SourceForge.JP Magazine

 開設後間もないメーリングリストで、ある変革が静かに進行中だ。数年間にわたる誤った敵対関係を覆すこの出来事は、多くのフリーソフトウェアユーザーにとっても大きな意味を持つ。KDEGNOMEの両プロジェクトは、1997年以来、フリーのデスクトップ環境の王座をめぐって競争を続けてきた。その間、コードレベルでの提携はあったが、普及促進での提携は一切なかった。その両者が、フリーデスクトップ環境のマーケティングおよび普及促進を行う共同イニシアチブを立ち上げたのだ。

 KDEとGNOMEは、マーケティングおよび普及促進の活動を各自で継続しながら、この新しい協力関係の下で、例の独占的大手競合からそれぞれ市場シェアをどれだけ獲得すべきかを見定める。 KDEの普及促進に携わる有志の1人として言わせてもらうが、この共同プロジェクトは、ぜひとも成功させる必要がある。また、デスクトップ環境に関するあらゆるフリーソフトウェアのマーケティングおよび普及促進の活動の中心になるべきものだ。

 実は、今回のメーリングリストが開設されたことは、まったく驚くに当たらない。KDEプロジェクトは、昨年の終わりにKDE Marketing Working Groupの設立を発表していたのだ。「KDEにかかわる緊密かつ戦略上の情報交換」を目標に掲げたこのグループは、KDEプロジェクトのマーケティングおよび普及促進の活動に対して新たな着眼点と専門的知見をもたらした。KDE 3.5リリースの広報活動の改善から、はじめての本格的な市場調査の実施やコミュニティーの成長基盤であるSpreadKDEへの取り組みにいたるまで、このグループによる実績やツール類は、有志たちに受け継がれてより大きな効果を上げつつある。

 一方、GNOMEプロジェクトでもここ数ヶ月間、自前のマーケティンググループを再活性化させるべく一連の討論や小規模な調査活動を忙しく行っている。これらの活動の結果として、大規模な資料および調査のリポジトリが作られている。限られた調査事例や未調査の意見をめぐって泥沼化しがちなテーマで、建設的な議論を行うことがいかに難しいかを考えると、結果は思いのほか上々だ。

 こうした専門的知識と目的意識の向上からすれば、おそらくKDEとGNOMEの提携は必然の成り行きだったといえる。同じことは、開発者同士でも起こり得る。プログラムおよびプロジェクトがある程度まで成熟していれば、お互いが協力することでメリットが得られるのは自明である。この考えは、コードについても成立する。次の例を考えれば、分かるだろう。2人の開発者がどちらもPDFビューア(例えば、KDEのKPDFとGNOMEのEvince)を開発している場合、基本的なPDFレンダリングの共有技術であるpopplerで協力しようとするのはごく当たり前のことだ。

 では、マーケティングや普及促進の活動についても、競合同士が協力し合うことが有意義なのはなぜだろうか。理由の1つは、大部分のユーザーがGNOMEとKDEの両方のコンポーネントを利用していることにある。GNOMEデスクトップでは、Windowsデスクトップ以上にKDEのアプリケーションがよく実行されており、KDEデスクトップとGNOMEのアプリケーションについても同様の関係がある。これは、ただKDEやGNOMEのアプリケーションがWindowsではまったく動作しないからという単純な理由からではない。まるで人々がデスクトップ環境を好んで選んでいるかのように市場調査を行い、その考えに基づいて普及促進を行うと、最初から市場に対して誤った理解をしてしまうことになる。

 多くの人々は、KDEとGNOMEのソフトウェア開発およびライセンス供与の考え方に賛同しているから、そのデスクトップ環境を利用しているのである。この点で、両プロジェクトの意見は一致している。事実、フリーまたはオープンソースのデスクトップ環境は、各プロジェクトが配布している限定的な技術よりも興味深い構想のものが多い。この点は、利用先が政府機関、慈善団体、選挙運動組織のような場合にとりわけ良く当てはまる。ソフトウェアのフリー化に対する倫理観や政策が訴求力を持ち、公的な組織の目標に合致するからだ。

 GNOMEおよびKDEプロジェクトに貢献している人々にも、マーケティングおよび普及促進で提携するだけの十分な理由がある。仮に、KDE側のマーケティング活動においてGNOMEが批判されたとすると、GNOMEに貢献している人々は、当然D-BUSpopplerOpen SyncなどのプログラムでKDEと提携するのを嫌がるだろう。フリーソフトウェアのプロジェクトでは、他者が何かしようとするのを防ぐことはできないものの、こうした冷ややかな態度が問題の解決につながることはめったにない。反対に、お互いを認めて尊重し合えば、将来の協力に向けて大いに役立つことになる。

 デスクトップ環境の市場に占めるKDEとGNOMEのシェアがごくわずかであることは否定できない。GNOMEは、KDEのシェアを20%奪えば、利益を出すことができる。しかし、KDEとGNOMEが協力して、2010年までにデスクトップ環境市場のシェアを10%獲得できれば(これは、GNOMEマーケティングプロジェクトの目標値である)、両者は共に莫大な利益を得られるのだ。

 マスメディアは、デスクトップ環境をめぐる競争について書き立てることを好み、KDEとGNOMEが熾烈な競争を繰り広げるのを快く思っている。そうすれば、興味深い話題に仕上がるからだ。また、両方のプロジェクトへの貢献者をときどき登場させて話を盛り上げる。リーナス・トーバルズ氏がGNOMEよりもKDEを推奨したときや、Novellが社内のKDE関係者全員を解雇しようとしているという噂が広まったときのマスメディアの興奮ぶりをご覧になるといいだろう。どちらの話題でも、両プロジェクトは大いに注目を浴びた。しかし同時に、両プロジェクトとも孤立して資金が不足しており、問題に満ちた某デスクトップ環境よりも優位に立つために競争を行っているという印象も与えてしまった。フリーのデスクトップ環境に「好印象を与える」記事の掲載をマスメディアが止めれば、こうした印象が事実ではないのに広まってしまう可能性がある。GNOMEを批判すれば、KDEもまた窮地に陥る。そして、その逆もまた成り立つ。

 KDEとGNOMEは、もともと競合関係にあってまったく別々のプロダクトである、と考えるのは大きな問題である。両プロジェクトが市場調査――開発において何を念頭に置くべきかを明らかにするため、市場が新たに何を求めているかに回答を出すプロセス――を行う場合は、特に大きな問題になる。互いに協力することなくそれぞれの差異に注目しても、KDEとGNOMEが、収益限界点を超えるだけの市場のニーズを満たす重要機能を見い出すことは不可能だろう。その場合は、デスクトップ環境の大半のユーザーにとってつまらないプロダクトの開発と普及促進が行われることになる。

 ただし、ターゲット市場において何が重要かを見極めた上で、両者の違いを認識することには意味がある。市場調査での協力と健全な競争関係によって、フリーの強力なデスクトップ環境が提供されないかぎり、KDEとGNOMEがこの段階に到達することはできない。協力関係は、市場調査に恩恵をもたらすだけでなく、有意義な結果を生み出すためにも必要になる。 KDEとGNOMEが健全な関係と成功を長く維持するには、それぞれのプロジェクトにもたらされる具体的な利点を拡大しつつ、フリーのデスクトップ環境の普及促進を共同で行うこともまた不可欠だ。今回の新しいメーリングリストが、単なる事例紹介や夢物語に終わる失敗例ではなく、収益向上の模範例になることを願うばかりである。

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