ITライフサイクルマネジメントでなくビジネスライフサイクルマネジメントだITライフサイクルマネジメントの新発想

EA、SOA、ITILなど、さまざまなフレームワークやアーキテクチャが注目される中で、ITライフサイクルマネジメントの重要性が強調されている。それぞれのフレームワークがどのように連携され、ITライフサイクルマネジメントとしてどうあるべきか。NPO(非営利団体)法人itSMFジャパン理事長を務める日本情報通信(株)社長の富田修二氏に聞いた。

» 2006年05月22日 07時00分 公開
[増田克善+アイティセレクト編集部,ITmedia]

――ITサービスマネジメントの視点から、現在のITシステムはどのような課題を抱えているとお考えですか。

富田 企業の合従連衡、あるいはSOX法をはじめとする法規制など経営環境が大きく変化する中で、今日のITサービスには「4つのC」といわれる課題があります。つまりComplexity(複雑さ)、speed of Change(変化の速さ)、Compliance(法令遵守)、Cost(コスト)の「C」です。

 現在のITシステムは追加投資を続けた結果、システムが複雑化して運用管理の困難さを深めています。またIT環境の変化が激しすぎて適切なサービスレベルを維持できない。そうした状況に加え、法規制への対応として一層のセキュリティ対策や監査対策などが求められています。これらの問題は、今まで以上にシステムの管理や運用に必要なコストの増大を招いているといえます。

 企業が事業遂行においてITを活用することが不可欠であるとする考えは、どの経営者も持っている。ところが事業環境や企業組織の変化、あるいは顧客ニーズの変化に現在のITシステムが提供するサービスが対応できていない。そうした課題に対して、ITのライフサイクル全体を見据えた全体最適の視点を持つことがより重要になっています。そもそもITILは、顧客あるいはユーザーに対して現在と将来のニーズに一致したITサービスを提供するために、ライフサイクルの視点で見たマネジメントプロセスを標準化したものなのです。

ライフサイクルマネジメントを明確にした改訂へ

――ITILというと、システムの運用管理におけるプロセス概念、ベストプラクティスと理解されているのでは。

富田 その認識は、ITILの一部である「サービスサポート」と「サービスデリバリー」が脚光を浴びたからです。企業は既存システムの運用コストが負担になっているため、その削減の手法としてITIL導入に取り組んだ面があります。また、導入を推進してきたベンダー自身も、サービスデスクやインシデント管理といったプロセス管理が顧客に理解されやすく、システムに組み込みやすかったため、あまりライフサイクルという視点を持っていなかったのも事実です。ITILは現在のバージョン2.0から3.0に改訂作業が進められていますが、本来のITサービスのライフサイクルマネジメントという視点をより明確にしようという意味合いも含まれています。

 バージョン3.0では、ビジネスバリューを高めるためにサービス戦略に基づいて、サービスのライフサイクルにフォーカスしています。具体的には、現在の7つに分けられているカテゴリーから、「サービスデザイン」「サービスイントロダクション」「サービスオペレーション」「サービスインプルーブメント」というサービスライフサイクルを強く意識した体系になる予定です。サービスサポートとサービスデリバリーがサービスオペレーションとして構成され、カテゴリの相関関係がより明確になります。まさにITライフサイクルマネジメントそのものの考え方になるわけです。

 ベストプラクティスのドキュメントが7冊から5冊になっても、ITILはPDCAのライフサイクルを中核概念としていることに変わりはなく、サービスあるいはビジネスのライフサイクルの事業上、戦略上、戦術上、そして運用上の要素を考慮した体系になります。

――運用のフレームワークであるITILと、SOAなどの開発のフレームワークとの関係が強まるということでしょうか。

富田 ITILは元々プロセスオリエンテッドに運用を考えてサービスを提供するということこが基本。SOAもビジネスプロセスを基本単位としているので、開発手法とITサービスマネジメントの概念が融合してくると見るべきです。ITライフサイクルマネジメントの要素として、それぞれが連携していると捉えればいいでしょう。

ビジネスライフサイクルでITを考える

――今後、ITライフサイクルマネジメントはどうあるべきだとお考えですか。

富田 先にも述べたように企業の合従連衡や法規制、あるいは顧客ニーズなどによってビジネス環境は絶えず変化しています。その中で企業は、ビジネスを効率化し、売り上げを伸ばし、営業収益を拡大していかなければなりません。新たなビジネスモデルを創出する、他社に勝てるプロダクトを生み出すといったことは大切ですが、どこに自分の会社の弱点があって、それをどう克服するか、オーバーヘッドコストをどう削減するか、あるいはCS(顧客満足度)を向上させるといったことが重要です。これらはPDCAサイクルの積み重ねでしか実現できません。ビジネスのライフサイクルを最適化して、しかもいかに早く回すかというマネジメントが要求されます。つまり、ビジネスのライフサイクルマネジメントが重要であって、そこでITをどう活用するかだと思っています。そうした視点に立てば、ITライフサイクルマネジメントではなく、ビジネスのライフサイクルマネジメントと考えるべきです。経営者はその根本を理解する必要があります。

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