頭の柔らかいうちにセキュリティ体験を――ラック三輪氏

8月8日から12日にかけて、22歳以下の学生や生徒を対象とした「セキュリティキャンプ2006」が開催される。実行委員長の三輪氏に、その狙いを聞いた。

» 2006年06月29日 17時19分 公開
[高橋睦美,ITmedia]

 8月8日から12日にかけて、22歳以下の学生や生徒を対象に合宿形式でセキュリティ技術の講習、実習を行う「セキュリティキャンプ2006」が開催される。

 このキャンプは、若年層の情報セキュリティ意識の向上や優れたセキュリティ人材の発掘、育成を目的に経済産業省と日本情報処理開発協会(JIPDEC)が実施しているもの。3回目の開催となる今年は、大学生など20歳以上の学生からも参加希望があったことから、対象年齢を満22歳以下とした。これまでのようにグループ単位での講義とPCを使っての実習を行うほか、セキュリティ企業の見学、法律関係者やセキュリティ業界の若手技術者との交流会なども講義課目に含まれている。

 セキュリティキャンプの実行委員長を務める三輪信雄氏(ラック代表取締役社長)は、このセミナーは、技術者を目指すための合宿ではないという。重要なことは「若いうちに、キャンプを通じてセキュリティの基本的な考え方を分かってもらうこと」(同氏)

 「将来、セキュリティ関連の仕事に就くにしても就かないにしても、極端なことを言えばIT系以外の職に就くとしても、キャンプを通じて情報セキュリティを体験し、いろいろ考えたり感じることによって得られるものは必ずあるはずだ」と三輪氏は述べている。

三輪氏 セキュリティキャンプでは「ぜひ真剣にいろいろな『遊び』に取り組んで楽しんでほしい」と述べた三輪氏

 実際に、これまでの参加者の参加理由を見てみると「ばりばりのセキュリティエンジニアを目指している学生はほとんどいない。自分で構築したサーバやSNSのセキュリティが心配で、知識を知りたいといった理由から参加してきた学生が多い」(三輪氏)。そしてこれは、「動機としては非常に正しいもの」だという。

 三輪氏は、プログラマやエンジニア、さらにITに限らずビジネスに携わる人全般が、ある程度セキュリティについて理解したうえで、必要に応じて本当に専門知識を持ったセキュリティエンジニアが関与していく形があるべき姿ではないかと指摘。その意味で、頭の柔らかい若い時期にいろいろな経験をしておくことは貴重だとした。

 もう1つ三輪氏がキャンプに期待する効果は、コミュニティの形成だという。同じ問題意識を持つ面々が顔を合わせ、数日間一緒に過ごす機会はそうそうない。

 「そもそも技術者は、一人では何もできない。何か新しいことに取り組むにしても、『ストリーミングならばあいつに聞けばいい』『サーバのことならこいつが知っている』というつながりがとても重要」(同氏)。多くの技術者は社会人になってから、仕事を通じてそうしたつながりを作っていくものだが、キャンプを通じて若いうちにコミュニティを形成できることはかけがえのない財産になるだろうという。

需要がないのに人材不足?

 一方で三輪氏は、セキュリティ技術者の「人材不足」は本当だろうかと疑問を呈している。

 「たとえば、セキュリティの専門知識を持った人材の求人がどれだけあるか。エンドユーザー企業にはテンポラリなニーズはあっても、正社員としてセキュリティ技術者を雇用したいというニーズはほとんどないのではないか」(同氏)。雇いたいという人がいないのに足りない「はずだ」と言われる現状は、順番がおかしいのではないかという。

 もちろん、中長期的に見れば、セキュリティの人材は必要だ。しかし、供給側であれこれ取り組む以前に、技術者を雇い入れる企業――エンドユーザー側の意識啓蒙、啓発がまず必要だと三輪氏は述べる。

 「足りないのはセキュリティエンジニアではなく、セキュリティエンジニアと経営層をつなぐ人であり、もっと言えばセキュリティについて理解している経営層だ」(三輪氏)。

 現在、多くの企業では、新会社法や日本版SOX法などの施行に備え、法務部門の充実が急がれている。しかし「企業に法務部門があるのならば、リスク管理を担うセキュリティ部門があってもおかしくない。にもかかわらずそういう雇用ニーズがないのは、経営者がその必要性を知らないから」(同氏)。

 同時にエンジニア側も、ただ技術だけに特化するのではなく、「情報漏洩を防ぐ」などの最終目的を理解し、厳しくすべきルールとゆるめるべきところのバランスを取りながら対策をまとめ上げていく能力が求められるという。

 例えば医者などの職業に比べると、セキュリティエンジニアを「一生の仕事」ととらえている人は少ない。まず企業側から「セキュリティの人材が必要だ」という声が上がるようになって初めて、学生がその仕事に魅力を感じ、社会的認知度も上がるのではないかと三輪氏は述べている。

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