IT技術者不足と“薄利多忙”を解決できるか――LLPが仕掛けるM&A(1/2 ページ)

IT需要が好調の中、大手が最も頭を悩ませているのは技術者不足だが、その一方で中小規模のIT企業は“薄利多忙”に陥っている。そんな両者の問題を解決しようとする新たな支援事業を始めたLLP(有限責任事業組合)がある。岐路に立つIT業界に投じられた一石がどんな波紋を呼ぶか――。

» 2007年01月18日 07時00分 公開
[松岡 功,アイティセレクト編集部]

IT企業にのしかかる技術者不足と“薄利多忙”

 いまシステム開発を行うIT企業は、まさに猫の手も借りたいくらい忙しい状況に立たされている。それに伴い、技術者不足が一層深刻な問題となってきている。大手の場合、各社とも技術者の稼働率が90%を超え、受注を抑制せざるをえない状況に立たされているところもあるという。

 システムの開発は、典型的な労働集約型の作業である。したがって、技術者不足は今後の成長の足かせになりかねない。そうした懸念から、大手はこのところ大幅な採用増を打ち出しているが、一応の仕事をこなせる技術者になるのは5〜10年かかるといわれる。それでは追いつかないので、下請けへの発注を増やそうとしても国内では技術者が見つからず、各社は中国などへの委託に一斉に動いた。今ではそうしたオフショアリングにおいても技術者の奪い合いになっているという。この対策はIT業界全体として早急に手を打たないといけないところにきている。

 一方、中小規模のIT企業にとっても技術者不足の悩みは大手と同様にあるが、それ以上に悩みが深いのは、仕事は忙しいもののゼネコン的な多段階下請け構造の下層に位置するところが多いため、“薄利多忙”に陥っていることだ。やっかいなのは、中小にとってその下請け構造が、好況時は薄利多忙に、不況時は受注急減に両ぶれする要因として不変的に存在することである。今のままのビジネスモデルでは将来立ち行かなくなるというのが、中小IT企業の共通の思いとしてある。さらに後継者問題やオフショアリングの脅威などがのしかかり、まさしく企業としてのネクストステージをどう描くかが問われている。

中小企業をM&Aの対象にしたLLPが出現

 そんな両者の問題を相互補完することで解決の方向を見出そうと、9月に設立されたばかりのLLPが新たな支援事業を始めた。

 東京・恵比寿に本拠地を置くハーネス(Harness)LLPは、IT業界専門のM&A(合併・買収)支援および各種事業支援を行う事業体で、とくに技術者不足を少しでも解消したい大手企業と、ネクストステージの選択肢の一つとして一部事業あるいは会社ごと売却しようと考えている中小企業の両者のニーズをマッチングさせ、お互いにメリットの大きいM&Aを実現させることに主眼を置いた活動を行っている。

 ハーネスLLPの松倉泉理事長によると、「このところ業績が好調な大手企業では、足下の技術者不足の解消と今後の技術力強化に向けて、良いM&A案件があれば投資したいというニーズが非常に高まっています。一方、中小企業では後継者問題を抱えていたり、下請け構造から脱却して自分たちの技術力を生かせるような企業と組みたいと考える経営者が増えてきています。その両者のニーズをマッチングさせて相互補完するようなM&Aの成功例が増えてくれば、IT業界の活性化にもつながると考えました」と語る。

ハーネスLLPの松倉泉 理事長

 こうしたハーネスLLPの活動の中で特筆すべきは、従業員数十人の小規模な企業もM&Aの対象にしていることである。とかくM&Aというと大手企業同士のダイナミックな動きが目立ちがちだ。実際、M&Aの仲介業者も数多いが、それらのほとんどは株式あるいは事業の譲渡価格で1億円を下回るような小さな案件の成立に乗り出すことはまずない。譲渡価格の一定の割合が手数料報酬になるため、小さな案件ではコストパフォーマンスが低いからである。

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