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» 2007年02月13日 09時25分 UPDATE

エンドユーザーコンピューティングにスパイスをきかせるIBM Lotus

「Lotusphere2007」で発表された「Lotus Connections」や「Lotus Quickr」をはじめ、2007年中に登場が予想されるLotus製品群は、Web 2.0のスパイスがふんだんに使われることで、企業における「自らの存在」というもっとも基本的な部分の可視化を実現しようとしている。

[西尾泰三,ITmedia]

 ビジネスの世界で実績のあるものが、コンシューマーの世界に落ちていくのが従来の常。しかし今、この逆転現象が起きつつある。それは、IBMにおいても例外ではない。「ハードウェアを例に挙げると、Cellプロセッサ(Cell Broadband Engine)は当初、PLAYSTATION 3のパフォーマンスを向上させる目的で設計されたが、現在ではロスアラモス国立研究所に納入されるペタFLOPS規模の処理能力を有するスーパーコンピュータ『Roadrunner』のアクセラレータとして採用された。これと同じことがソフトウェアの世界でも起こりつつある」と話すのは、日本IBM Lotus事業部の澤田千尋事業部長。先月開催されたユーザーカンファレンス「Lotusphere2007」で発表された「Lotus Connections」や「Lotus Quickr」といった新製品で、ソーシャルブックマークなど、いわゆるWeb 2.0系技術の要素を多く取り入れたことを尋ねての返答である。

DSC_0478.jpg いわゆる「Web 2.0サービス」が本当に企業に根付くのか、といった疑問に澤田氏は、「メールが同じようなパターンで普及し、企業がセキュリティなどの問題を認識して取り組むにはそれなりの時間がかかった」と話し、時間はかかるもののその具体的なメリットを伝えていく必要があると話す

企業におけるWeb 2.0はエンドユーザーコンピューティングの新たな幕開け

 なぜIBMはこのタイミングでWeb 2.0系技術の取り込みを図ったのだろうか。イノベーションを口にするIBMからすれば、後手に回った印象も否めない。澤田氏は、「ブランドイメージがあるが故に、新しいものへの取り込みに慎重であった」と説明する。続けて個人的な見解として「(IBMの)Web 2.0に対するアジャストは遅かった。それは、そうした技術を使わずとも、そこそこの成長が期待できたため」とも。

 Notesのファーストバージョンである「Lotus Notes R1」がリリースされたのは1989年。フォーム/ビューという概念を持ち込んだ文書管理や、電子会議室といった機能を備え、かつサーバの分散配置運用を可能にするレプリケーション機能の実装など、システムと非定型業務が多い実業務の隙間を埋める先進的な技術群をワンパッケージで提供したことで、リリース当時から顧客の支持を得た同製品は、直近の四半期でも二桁成長を続けるという、成熟した製品としては類を見ない成長を示している。澤田氏自身、「成長していたがゆえに、今までのものに甘んじていた部分があった。本当の意味で顧客の琴線に触れるものが何かうまく見いだせていなかったのかも」と過去を振り返る。

 しかし、今後ますますグローバルな競争が要求される中、コラボレーションのあり方を考えると、すばらしいとはいえ現状のアーキテクチャに安穏としてはいられない。「最初に製品ありき」のスタンスから脱する必要があり、かつ、ユーザーが求めているものを考えた結果、Web 2.0系技術の取り込みを進めたのだ。

リアルタイムコラボレーションの投資対効果は誰が見積もる?

 「新たな技術やそれをベースとするソフトウェアの導入の話が持ち上がると、ユーザー側からするとウェルカムなものであることが多いが、情報システム部は“投資対効果は?”などの議論になってしまう。これがエンドユーザーコンピューティングの常」と澤田氏。Notesに限らず、情報系システムに対するROIに関する議論は長年続いているが、コラボレーションというものを真剣に考えたとき、ガバナンスが強すぎることはいい影響を与えないし、その導入効果は本来人事コンサルティングのような分野で語られるもの」と澤田氏は具体的なメリットが伝わりづらいコラボレーション環境の導入について述べる。

 これはWeb 2.0系技術を持ち出さずとも、インスタントメッセージング(IM)ソフトウェアについて見てみると理解しやすい。企業におけるIMソフトウェアの導入の現実を見ると、IT部門の許可やサポートを受けたもの、いわば公式に導入されているケースは珍しい。どちらかといえば、個人がセキュリティや信頼性をあまり考慮することなくコミュニケーションツールとして導入しているというケースの方が一般的である。

 ユーザーがIMを欲した流れの背景にあるのはやはり「リアルタイムコラボレーション」への終結ではないか。この観点で見たときのメールの問題点はこの記事が詳しいが、要するに、各々のメールのプライオリティに対する送信側・受信側の認識の相違が避けられないことに尽きる。送信したメールを相手がすぐに読むかも分からない上に、そもそもPCを起動しているかすら分からない状況は、コミュニケーションロスやタイムロスにつながっている。そうした状況にIMが持つリアルタイム性が受け入れられたのだろう。特にビジネス上の意志決定が求められるような場合、メールベースでのワークフローと比べると、IMを用いた意志決定のスピードは大きな差があることは言うまでもない。故にIMの普及がもっとも早かったのは、1分1秒が重要な価値を持つ金融業界だったのである。「グローバルな取り組みにおいては、意志決定のスピードは大きな意味を持つ」(澤田氏)

 IMソフトウェアなどリアルタイムコラボレーションを志向したソフトウェアが意志決定のスピードに大きく寄与することは比較的容易にイメージできるだろうが、現実には、企業におけるIMソフトウェアの“公式な”導入率ですらまだまだ低い。セキュリティなど企業向けの機能を備えた「IBM Lotus Sametime」にしても、以前の取材ではLotus事業部製品リリースマネジャーの羽田野哲男氏が「国内のSametimeユーザーはNotes/Domino導入企業の1割程度、米国では3割程度」と述べている。極論するなら、この差が日米の企業における競争力の差となって現れているわけで、グローバルでの勝負を余儀なくされる現在においては見直しが求められる部分でもある。

イノベーションとは一握りの天才から生み出されるものではない

 「イノベーションとは一握りの天才から生み出されるものではない。みんなの声が必要」と澤田氏。IBM自身も、イノベーションにまい進すべく、この考えに沿った取り組みを行っている。同社は「World Jam」などの名称で、オンラインでのブレーンストーミングセッションを数年前から実施しているが、2006年7月にはこの参加者を社内だけでなく、提携先企業、顧客、そして従業員の家族にまで拡大した「InnovationJam」を開催、既存の考えに縛られないアイデアを広く求めた。2回実施された72時間ずつのセッションには、約15万人が参加し、そこから3万7千を超えるアイデアが生まれた。これらのアイデアは最終的に10件にまで絞り込まれ、新事業へと進展していく予定となっており、そのために1億ドルを投じることも明らかにしている(関連リンク参照)。リアルタイム翻訳サービスや、簡易ビジネスエンジンといった早期に登場が予想されるものから、ナノテクノロジーや太陽光発電を利用して水をろ過せんとするアイデア("Big Green" Innovations)など、既存の製品部門の枠を超えたアイデアが並んでいる。

 「InnovationJam」のようなコラボレーションは何もIBMしかできないというわけではない。Web 2.0系技術が図らずも証明したように、すでにコンシューマーレベルでは、ソーシャルブックマークをはじめ、多種多様な形でのユーザー間のコラボレーションを実現している。企業においては、サーバの状況、経営状況……、過去さまざまなものが可視化されてきた。しかしそこには、企業における「自らの存在」というもっとも基本的な部分の可視化は欠落していた。そのために必要なものを継ぎ目なく統合された形で提供し、コラボレーションの新たな幕を上げようとするのが、2007年度から順次市場に投入されるLotus製品群なのである。「新しいエンドユーザーコンピューティングのあり方、言い換えれば第二世代のエンドユーザーコンピューティングで、企業内外を問わない縦横無尽のコラボレーションを実現する」と澤田氏は製品への自信を見せる。

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