HPが自社でRed Hatのサポートを行う可能性は――HP・ガービー氏

最近ではHPのLinux/OSS関連のトピックで顔となりつつあるビーデイル・ガービー氏が来日。GPL v3に対する見解や、Oracleと同様にRed hatのサポートを自社で行う可能性について答えた。

» 2007年02月22日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 先日発表された第1四半期(11〜1月期)決算では各部門での増収を達成するなど、このところ元気のよいHP。そんな中、米HPのOpen Source&Linux Chief Technologistを務めるビーデイル・ガービー氏が来日した。

 今回の来日は同氏がボードオブディレクターであるConsumer Electronics Linux Forum(CELF)のボードミーティングが東京で開催されるため。オープンソースコミュニティーの中でもよく知られた同氏に話を聞いた。

ガービー氏。HP内部でもLinux/OSS関連のトピックにはアドバイザリなどの立場で広範囲にかかわるなどする同氏は、Debianの非営利団体であるSoftware in the Public Interest(SPI)の会長も務めるなど、コミュニティーからの信頼も厚い

―― HPとCELFの関連がよく分からないところがあります。

ガービー わたしたちの製品でも、ブレードサーバのラックのエンクロージャーの中や、シンクライアントのシステムなど150以上の製品でLinux/OSSが組み込まれています。必ずしも顧客の目に見えるわけではないが、OSSは組み込み分野で多く使われています。どのように、またどの程度、といった程度の差はありますが、HPのビジネスで、LinuxやOSSを考慮していないものはありません。

―― 組み込みの話に関連して、GPL v3について質問させてください。CELFのボードミーティングではGPL v3についての話はありましたか?

ガービー 策定プロセスの進捗などは毎回話題にはなりますね。GPL v2からGPL v3に変わるにあたって、Linux/OSSの使われ方がどう変わるのかを懸念する声はあります。

―― HPがGPL v3のドラフトまたはその策定プロセスで懸念している点はどこですか?:ガービー ソフトウェア特許に関する文言と、反DRMなどの制限的条項についての大きく2点です。とはいえ、これが非常に深刻かと言えばそうでもなくて、単にまだ十分な納得ができていないということであり、個人的な話をすれば、今のドラフトでも基本的には問題無いと考えています。もちろん、既存のGPLに見られるあいまいさを排除するため、どちらに振れるかを決める上では緊張も走ることがありますが、HPとしては、この策定プロセスに当初からかかわってきたこともあり、最終的にはHPにもそしてコミュニティーにも有用なライセンスになるであろうと楽観的に考えています。

 GPL v2の誕生当時と現在で事情が違う点として、Linux/OSSの認知度も、そこに参加する人数も大きく変化したことで、1つの見方に収束しないケースが多々出てきたということです。GPL v3の策定においてリチャードとエベンが掲げている目標というのは非常に壮大なものですが、だからといって決して不可能なものでもないと思います。

―― Free Software Foundation(FSF)は、GPL v3の最終版について、当初3月にはリリースしたいとしていましたが、NovellとMicrosoftとの間の特許および技術提携に関連して問題が浮上してきたことで、そうした行為を禁じるための修正にやっきになっているように思えます。

ガービー FSFとしては、NovellとMicrosoftの提携が実際のところどういった意味を持つのか、その内容の理解に努めているのでしょう。

―― SunはGPL v3を好意的に受け入れ、JavaとOpenSolarisの両方での採用を検討していると発表するなどしています。確か2年ほど前のLinuxWorldで当時のHP NonStop Enterprise部門およびOSS/Linux部門副社長兼ジェネラルマネジャーだったマーティン・フィンク氏は、IBMとSun Microsystemsに独自ライセンスを捨ててGNU GPLを支持するよう呼びかけました。支持するならHP製のノートPCを進呈するとも言いましたね(笑い)。結果としてそのとおりになった最近のSunをどう見ていますか。

ガービー あぁ。覚えています(笑い)。SunがGPLと矛盾するCDDLの下でOpenSolarisをリリースしたとき、わたしたちは大いに失望したものです。しかし彼らもGPLに誠実に向き合い、最近ではGPL関連で多くの発表をしていますね。今はGPL v3が正式にリリースされれるのを見極めているところではないでしょうか。いずれにせよ、開発者にとっても非常に望ましいことです。

 わたしがHPについて非常に誇りに思っているのは、HPはLinuxをサポートしている大手ベンダーの中で自らのオープンソースライセンスを持たない唯一の企業であることです。オープンソースコミュニティーの期待に沿って(新規のものを作るのではなく)既存のライセンスの枠組みの範囲でできることを考えるわたしたちからすると、どんどん新しいライセンスが生まれていくよりは、統合されていく方向になればいいと思います。

Oracleと同様の施策はあるか

―― 少し前ですが、DPLの候補でもあったマシュー・ギャレット氏がDebianコミュニティーの意志決定の遅さなどを理由にUbuntuへその軸足を移しました。これを1つ見ても、Debianコミュニティーに属する開発者にはフラストレーションが溜まっているように思います。Debian Project Leader(DPL)を務めるなど、Debianに対して多大な貢献をし、おそらくは愛着も持っているガービーさんはこの状況をどう見ていますか。

ガービー すべての開発者の声は平等であるという考え方に基づくヘルシーな運営がされているため、意志決定の遅さなどはたびたび指摘されますね。そこを改善しようとする動きはしばしば起こりますが、なかなか有効になっていないところもあると思います。ただ、だからといってDebianがだめでUbuntuがよい、ということにはならないでしょうし、OSSのエコシステム全体で重要な役割をDebianは果たしていくと思います。

―― しかし、Debianが内部の問題で揺らいでいるうちに、Ubuntuがメインストリームに躍り出てしまうのではないかという懸念もあります。Ubuntuもサポートに加えるつもりですか。

ガービー 現在、DebianのサポートはHP ProLiantとHP BladeSystemで行っていますが、欧州ではこの需要が多いですね。現状の話をすれば、Ubuntuはデスクトップ領域では人気を博していますが、サーバ領域ではそれほど支持されているわけではありません。このことからも、性急にUbuntuをサポートするといった議論にはならないことがお分かりかと思います。

―― 昨年のLinuxWorld Conference & Expoで、HPの人間が行った講演の中で、2005年にHPに寄せられたLinux関連の問い合わせのうち、実に99%以上をHP自らが対応したとありました。Red HatやNovell SUSEといった商用Linuxディストリビューションのサポートを自分たちで行えるというのはつまり、昨年Oracleが発表した内容と同様のことをやろうと思えばできるわけですが、そうした施策は考えていますか?

―― ないでしょう。それは、わざわざ自社のLinuxディストリビューションを持つことに価値はないと考えているからです。先ほどライセンスについて、統合の方向に進むことは望ましいと述べましたが、それと同様で、いくら同じだと言っても、完全に同一のLinuxディストリビューションではないものを提供することについては慎重に考える必要があると思います。特に、わたしたちのように、現在もパートナーとしてうまくやれている場合であればなおさらです。



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