このような背景から、設計当初より汎用的なTCPの最適化を狙って、WAN高速化装置を導入することになったという。谷口氏は「パケットサイズの大きい独自アプリケーションを一から作らなければならない状況において、WANの遅延まで考慮した設計は、ほとんど誰もやったことがないチャレンジだった」と話す。そして、いくつかの製品の中から同社が選定したのは、パケッティアの「SkyX」だった。
導入の決め手は、機能が絞られており、他社製品と比べて最も分かりやすかったからだという。SkyXは、WANでスループットが低下するTCPをXTP(Xpress Transport Protocol)というWAN通信に最適化した独自プロトコルに変換し、さらにデータ圧縮を行うことで、WANの通信を高速化する製品だ。もともと衛星通信用に開発されたため「Sky」の名称が付いているが、主にデータセンターレプリケーションや、HTTP、FTPなどのプロトコル最適化に向く。
谷口氏は、「欲張って何でもやろうとすると、新規プロジェクトは必ず失敗する。現状で何をやりたいのかを考えたときに、一番明快だったのがSkyXだった。また、複雑なシステムを運用する際には、導入する製品がブラックボックス化していない方がいい。SkyXはシステムをチューニングする必要がなく、社内での運用も簡単にできる。性能面でも、カタログレベルではあるが、TCPスループットが最も良かった」と説明する。
そのほかにも、サポート体制の充実度など決め手となるメリットがいくつかあった。株取引のようなミッションクリティカルな業務では、何かトラブルが発生した際に迅速に対応できる体制が重要な要件となる。そこで代替機を迅速に提供できるかという点も検討した。
さらに、ライセンス体系も同社の要件にマッチしていた。SkyXはボックス買いであり、他社のように回線速度に応じたライセンス体系ではなかった。「株取引では、急激にアクセスが集中してしまうことも想定しておかなければならない。その際にライセンスでサポートできる速度が制限されていると、迅速に対応できない」(谷口氏)という理由だ。
具体的なネットワーク構成を図1に示す。両拠点にSkyXを配置し、専用線とIP-VPNの2本の回線で冗長構成を取っている。ここでSkyXによって、WANを経由する全アプリケーション間のTCP通信を最適化している(一部の監視用アプリケーションとTelnetのみ除く)。なお、図の下側にあるバックアップ回線では、シスコシステムズのMDSを利用して、EMC SRDF/FC-IPのストレージシステム間の同期を5分間隔でとっている。ここでは、あえてSkyXは利用していない。何か問題があった場合に原因の切り分けが容易なこと、データ自体も差分情報のため容量がそれほど大きくないなどの理由からだ。
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