情報スパイが欲した? ソーシャルネットワーク「A-Space」の真相

「A-Space」はMySpaceやFacebookを模したソーシャルネットワークだが、その目的は秘密諜報員らが情報を共有することにある。

» 2007年09月04日 17時46分 公開
[Clint Boulton,eWEEK]
eWEEK

 一般に、スパイは情報を共有するのをあまり好まないが、米国国家情報局および米国政府は、スパイたちが情報を共有するよう促しており、そのためにセキュアなソーシャルネットワーク「A-Space」を活用する考えだ。

 A-Space(Aはアナリストの略)はMySpaceやFacebookをモデルとしており、16の諜報機関に所属する米国のスパイおよび秘密諜報員が互いに情報を共有することを目的として12月に開設される。

 この取り組みは、国家情報局(DNI)の主導で進められている。国家情報局長官は2001年9月11日の同時多発テロを受けて設けられたポストで、米国内外のセキュリティの取り組みを連携し、16の情報機関の間での協力を促進する役割を担う。秘密活動に従事する諜報員やセキュリティ面で懸念を抱く分析担当者らの不安に配慮し、A-Spaceへの参加は任意となるようだ。

 分析変換と技術を担当するDNI高官のマイク・ワートハイマー氏によると、9.11同時テロを予見、防止できなかた反省を踏まえ、情報共有の方法の改革を進めてきたセキュリティ機関の取り組みの成果の1つがA-Spaceだという。

 米国の各情報機関のネットワークは、互いに隔離され、ファイアウォールで要塞化されたセキュアなITインフラを基盤とする。A-Spaceは、諜報員らがこれらのネットワークの間で情報を収集・共有するのを支援するために用いられる。

 ワートハイマー氏は8月30日、米eWEEKによる電話取材で、「今日、CIA(中央情報局)やNSA(国家安全保障局)を含む16の情報機関は、それぞれ専用のファイアウォールで守られた各機関個別のネットワークを利用している。これらのネットワークは物理的に接続されてはいるが、ファイアウォールや関連する防護機能があるため、実質的にはリンクされていない」と語った。

 A-Spaceはこれらのファイアウォールの上に置かれ、Webブラウザを通じてアクセスする。同サイトはVPN(Virtual Private Network)のルック&フィールを備え、異種ファイアウォールを通じたトンネリングにより、諜報コミュニティーのすべてのアナリストが共通のネットワークにアクセスすることができる。

 諜報員たちが価値の高い情報にアクセスできるようにするため、A-SpaceにはWebベースの電子メール、インスタントメッセージング、各種のコラボレーションツール(GoogleのAppsスイートのDocsプログラムのような文書作成・編集機能など)、アプリケーションマッシュアップ機能などが装備される。

 これは、DNIの現在のインフラ構成と比べると大きく異なる。

 「今日では、自分のインターネットメールを読もうと思ったら、わたしがしているように、インターネットに接続された別のコンピュータをデスク上に用意しなければならない。仮に自分の組織が保有する機密資料とインターネットの両方で検索をしたいと思ったら、それぞれの検索用に別々のコンピュータを使用することになるのだが、インターネットの情報を自分の機密資料に移すのは非常に困難だ」とワートハイマー氏は語る。

 A-Spaceはでは機密資料の検索だけでなく、インターネットにも検索をかけて情報を取り込み、コンピュータに保存することができる。

 さらにDNIは、ソーシャルエンサイクロペディアサイトのWikipedia.orgを模したサイトも構築した。「Intellipedia」と呼ばれるこのサイトには、イラクでの戦争に関する記事やトップシークレットのドキュメントなどが含まれる。もう1つのタイプのソーシャルネットワーキングとして、DNIではdel.icio.usに似たソーシャルタギング技術「Tag|Connect」も作成した。

 しかしソーシャルネットワーキングツールというアイデアは、スパイという概念と正反対なのではないだろうか。われわれがそんなふうに思うのは、ジェームズ・ボンドやジェーソン・ボーンが活躍するスパイ映画の影響だろうか。

 ワートハイマー氏によると、情報とコミュニケーションをセキュリティ組織の間で細分化するという冷戦時代の考え方から脱却する必要があるという。「今は何といってもインターネットの時代だ」と同氏。

 ワートハイマー氏は、情報を共有しなければ人命の損失を招く恐れがあると、9.11同時テロを示唆し、A-Spaceと関連ツールは今日の社会で有用かつ不可欠であるとしている。さらに同氏によると、こういった政府部門のツールスイートを防護する責任はITセキュリティの専門家にあるという。

 「この難問はわれわれが担うのではなく、セキュリティ専門家が担うべきだと考えている。ソーシャルネットワークの分野では彼らにかなわない」ワートハイマー氏は話す。

 DNIおよびIntelligence and Security Allianceでは、9月4〜7日にシカゴで「Analytic Transformation Symposium」を開催し、A-Spaceを披露するとともに、フィードバックを受け付ける。

 ITアナリストらはA-Spaceに好意的な見方を示しながらも、通常は新技術を採用するのが遅い政府部門が、この分野で素早い動きを見せたことに驚いている。

 「一般に、企業と比べると政府は新しい技術や機能を採用するのが遅い。この技術は先進的な大企業が導入し始めたばかりだが、政府がこういった企業と並ぶ迅速な取り組みを始めたのには驚いた」とJupiter Researchのアナリスト、エミリー・ライリー氏は話す。

 Forrester Researchのアナリスト、ロブ・コプロウィッツ氏は、「リンジー・ローハンについて調べたり、チューリップ愛好家仲間を探したりするだけでなく、ソーシャルネットワーキングが有用な場面はほかにもたくさんある」と話す。

 「ソーシャルネットワーキングの利点は、企業や政府の環境でも生かすことができるが、その際にはセキュリティ、ガバナンス、ポリシーに留意する必要がある。ソーシャルネットワーキングの機能を利用するために、組織にとって重要なものを危険にさらすわけにはいかない」(コプロウィッツ氏)

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