SaaSからPaaSへ、マルチアプリケーション、マルチカテゴリーベンダーを目指すSalesforce.com

米国時間の9月17日、Salesforce.comの年次カンファレンスである「dreamforce07」が開幕した。プラットフォームサービスを主軸とする同社の戦略が語られる。

» 2007年09月19日 00時30分 公開
[谷川耕一,ITmedia]

 米国時間の9月17日、Salesforce.comの顧客および開発者向けの年次カンファレンスであるdreamforce07が開幕した。今年のカンファレンスは、昨年のサンフランシスコ モスコーン・コンベンションセンター・ウエストから、ノース、サウスの2つの会場を利用する規模へと大きく拡大をしており、事前登録者の数も5000名から7000名へと40%も増加したとのことだ。

 さらに、展示会場も拡大しその様子も大きく変化している。従来は、Salesforce.comのCRMサービスを補完する携帯端末のソリューションなどが数多く展示されていたが、今年はそれらはもちろんのこと、Salesforce.comをプラットフォームとして利用し、その上で独自のアプリケーションを提供する企業が多数参加しているのだ。

 オープニングキーノートセッションに登壇したCEOのマーク・ベニオフ氏も、展示会場の変化と同様、同社のプラットフォームサービスの戦略について時間を割いて説明を行った。冒頭、会場に参加している顧客があるからこそ、いまのSalesforce.comの成長があると顧客への感謝の言葉を述べ、同社の使命はイノベーションを駆使し続けることだと語る。実際、これまでの8年間で23世代ものメジャーバージョンアップを続け、100以上の機能を提供し、調査会社や雑誌などからイノベーターと位置づけられる存在になった。

プラットフォームサービスを強調する同社CEOのマーク・ベニオフ氏

 顧客からの支持によりビジネスは成長を続けており、これまでに3万5300社の顧客企業、90万のサブスクライブを獲得した実績が示される。そして、Ciscoでは3万、Dellも4万、さらに日本の郵政公社は4万5000ユーザーといったように、大規模な顧客が次々と生まれている状況が報告された。ここで、日本市場を重要と位置づけている表れで、日本からのイベント参加顧客を起立させ舞台上からお礼の拍手を送る一幕もあった。実際、郵政公社の事例は海外のメディアも注目しているようだ。午後に行われたメディアとの質疑応答セッションのなかでも海外記者からこの件について質問があり、日本市場ではパートナーとの関わり方やブランディングの難しさもあるが、米国に次いで重要な市場であることがその際にも改めて強調されていた。

プラットフォームサービスが新たなイノベーションを生み出す

 続いて次期バージョンアップとなるWinter'08の話題となり、新機能はプラットフォームサービスがその土台になっているとの説明がある。「プラットフォームサービスに注力した活動をしていると、3人の創設者とともに新たなビジネスを始めた当時に戻ったような気持ちになる」とベニオフ氏は言う。プラットフォームのサービスが、それだけベニオフ氏にとっては新鮮で刺激的なイノベーションだと言うのだ。

 同社にとって今後極めて重要となるプラットフォームサービスを新たに整理し直し、今回、名称も「force.com」と改めたという。これは、顧客はアプリケーションを欲しがっているのではなくプラットフォームを欲しがっているのだと気づいた結果であり、顧客ごとに異なる要求に応えるために、カスタマイズ機能を搭載してSaaS(Software as a Service)を実現し、さらに自由度の高い柔軟なインフラストラクチャとなるPaaS(Platform as a Service)へと進化したのだと説明する。

 ここで、Salesforceのプラットフォームサービスの優位性を証明する、Disneyの事例が紹介される。子供たちの夢でもあるミッキーマウスは、世の中に1人しか存在しない。そのため、同じ時間に複数の場所にミッキーマウスが存在してはならない。これを実現するための、キャラクター管理のアプリケーションを作れないかという依頼があったとのこと。同じ依頼はMicrosoftにもあり、同社は延べ3000時間を掛けてこれを構築したが、それでも幾つかの機能は足りなかったとのこと。対してSalesforce.comでは、96時間で完成したという。

 さらにゲームソフト開発企業であるElectronic Artsでも、人材採用のソフトをSalesforce.comのプラットフォームで構築し、リクルート用の優秀なソフトウェアとして賞を受賞したという事例も紹介される。このアプリケーションは3週間程度の時間で構築でき、ほかにも幾つかのアプリケーションを同時に構築したが、6週間程度で終了したという。これをスクラッチで開発した場合には、当初は9〜12カ月程度は掛かると予測された。PaaSを利用することでコスト削減を見込んでいたというが、むしろ短期間で開発できたことで、いち早く良い人材を多数採用できたという効果が大きいという。このように、イノベーションのサイクルを短縮できるforce.comならば、旧来のトラディショナルなソフトウェアを用いたアプリケーション構築よりも大きなアドバンテージがあるとベニオフ氏は主張する。

visualforceがforce.comの最後のピースを埋める

 すでにforce.comは、グローバル対応、信頼性、セキュリティを備えたインフラストラクチャの提供、そしてデータベース、インテグレーション、ワークフローによるロジック構築機能をサービスとして提供している。さらに、Application Exchangeで、構築されたアプリケーションを自由に選択し利用できる環境もある。これらによって、「Any User」と「Any Application」ということが実現されているが、さらにユーザーの利便性を向上させる「Any Interface」を実現する最後のピースとなる新機能が発表された。それがユーザー要求に合わせ、自在にインタフェースを組み直すことができるvisualforceだ。

 現状のSalesforce.comの画面には、どれにも上部にタブがありそれをクリックすることで画面を切り替えて利用する。この操作に慣れてしまえば問題はないかもしれないが、このインタフェースがあらゆるユーザーにベストなものではない。特定の用途でしか使わないのであれば、必要な画面だけのシンプルな構成のほうが使い勝手は良いはずだ。さらに、PCのブラウザ上だけではなく、携帯端末やタブレット、あるいはキオスク端末などでもSalesforce.comのサービスを利用したいユーザーもいる。visualforceによって、これらさまざまな要求に合わせ、インタフェースを自由にかつ容易に組み替えることができるというのだ。

 この効果を伝えるためには、AppleのiPhoneを利用したデモンストレーションが披露された。iPhoneには、通常ソフトウェアを勝手にインストールすることができないが、その代わりにタッチスクリーンによる便利なブラウザを持っている。そこでvisualforceを使ってカスタムのスタイルシートを適用し、タブレットPCなどと同様にすぐにSalesforce.comのアプリケーションが最適な画面構成で表示される様子が示された。

iPhoneに表示されたSalesforce.comのアプリケーション

iPhoneの画面の大きさや形に合わせたもので、指で操作するためにボタンなども大きく表示される。これらにより、iPhoneネイティブな操作ができるという。また、iPhoneが持っているカメラ機能との連携なども可能だ。スタイルシートのテンプレートなどは、Salesforce.comで用意するし、もちろんユーザーも作ることが可能だ。そして、それらは共有できるようにするとのことだ。

マルチアプリケーション、マルチカテゴリーのベンダーを目指す

 すでに、force.comの上だけでERPのアプリケーションを構築している会社も幾つか出てきている。その1つが英国のCODAというERPベンダーで、会計アプリケーションをforce.comの上で開発しているとのこと。force.comの上で構築すれば、インフラ部分を任せることができるのでアプリケーションの中身の開発に集中できるという。さらに、visualforceを利用することで、顧客に対しさまざまなインタフェースを提供したいとのことだ。

 Salesforce.comでも、社内用に休暇や給与管理といったアプリケーションを最近構築したとのこと。マルチテナントのSaaSでSFAから始まり、CRMのサービスで自社の基盤を作ってきたが、プラットフォームをサービスとして提供するforce.comの提供で、今後はマルチアプリケーション、マルチカテゴリを提供する新たな企業となることを目指すという。

 「皆さんもぜひSalesforce.comのプラットフォームに何を載せたいか考えてみてください」とベニオフ氏。今後もCRMは自分たちのコアのサービスだとは言うが、より一層SaaSからPaaSベンダーへのシフトが始まる兆しがここには見える。この分野には、現状Salesforce.comしかプレイヤーは存在しない。先行している余裕からか、同分野へのライバルの出現を期待するコメントさえ、ベニオフ氏からは飛び出すのだった。

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