セールスフォースがApexで狙う「ビジネス版Web 2.0」

セールスフォース・ドットコムは、「Salesforce」の最新版「Winter '07」を発表するとともに、ビジネス版Web 2.0の鍵を握る開発言語「Apexコード」のプレビューを公開した。

» 2007年01月19日 03時28分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 プラットフォームカンパニーへの脱皮を図るセールスフォース・ドットコムは1月18日、16日付けで米国にて発表されたオンデマンドCRM「Salesforce」の最新版「Winter '07」についての説明会を都内で開催した。

 Winter '07については、過去6年間で21回ものバージョンアップを行なった中でも、「最大のリリース」(同社)と自信をのぞかせる。画面上にフロート表示するリスト、ポップアップ・リマインダ、折りたたみ式サイドバーなど全面的にAjaxを採用して操作性と一覧性を高めたユーザーインタフェースのほか、CRM関連では承認ワークフロー機能に代表されるSOX法対応向けの機能や、スケジュールのアラーム機能、取引先情報やリードの移行ができるクライアント管理機能、CRMとコールセンター機能を連動させるCTI(コンピュータテレフォニーインテグレーション)を実現した「Call Center Edition」などが新たに追加されている。

 しかし、今回の目玉はほかにある。オンデマンド開発言語となる「Apexコード」をユーザーが利用できるようになったことだ。同社はこのApexコードを中核とするオンデマンドプラットフォーム「Apex」で何を狙うのか。

Apexとは

 ApexコードはJavaによく似たプログラミング言語を用いて、Salesforceの詳細なカスタマイズを可能にする。こうしたプラットフォームが大きな意味があるとする理由をまず述べておこう。

 いわゆるSaaS(Software as a Service)と呼ばれるようなインターネット経由のサービスとしてソフトウェアを提供するというビジネス形態においては、物理的に同じサーバー群を複数ユーザーで共有するマルチテナント型が主流になりつつある。この場合、個別に環境を用意するシングルテナント型に比べて低価格でサービスを提供できるが、反面、個別のユーザーのカスタマイズに答えにくくなる。事実、Salesforceもデータ項目の追加/変更やほかのWebアプリケーションとサービス連携させることはすでに実現していたが、独自の要件に合わせてSalesforce自体の機能を拡張したり、修正することはできなかった。

 こうした問題を解決するのがApexコードであり、ワークフローエンジンやWebサービスAPI群、リアルタイム・メッセージングなどの機能も含めたApexプラットフォームである。開発者側は、データベースやWebサーバなどのインフラを用意することなく、かつ、Salesforceのコンポーネントに対する拡張や修正だけでなく、まったく新しいコンポーネントも作成することもできる。

 Apexコードは、同日から開発者プレビューという形で公開されている。一般ユーザー向けには、2007年の上半期に提供を予定しているという。

「You Can Be a Developer」が意味すること

 さらに、同社代表取締役社長の宇陀栄次氏が「今後のIT業界はソーシャルプロダクションという言葉がキーワード」と話すように、このモデルではApexで開発したアプリケーションを、オンデマンドアプリケーションのディレクトリとなる「AppExchange」上でほかのユーザー企業と共有、交換できることも新たなポイントだ。2006年1月に発表されたAppExchangeは、すでに全世界で500以上(日本では60以上)のアプリケーションが利用(試用)可能で、ユーザーからのイノベーションを取り込み、セールスフォース1社だけではなし得ない技術革新を推し進める効果がある。加えてAppExchange上で公開したアプリケーションのマーケティング、販売、課金、流通のためのグローバル販売ネットワークとして「AppStore」も整備される予定で、ユーザー企業にとっても自らが開発したアプリケーションをパッケージとして販売できるという新たなビジネスチャンスの可能性が生まれるなど、オンデマンドコミュニティーの醸成が進みつつある。

 GoogleやAmazonなど、主にコンシューマ向けの市場から台頭したWeb 2.0系サービスと、オープンソースの開発にみられるバザールモデルに似た仕組みを巧みに取り入れ、「ビジネス版Web 2.0」を推し進めるセールスフォース。同社テクノロジー&アライアンス執行役員の榎隆司氏は、「コンセプトは『You Can Be a Developer』(誰でも開発者になれる)」と述べ、ベンダーが裏方となってユーザーのハブにならんとする姿勢を明確にした。

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