政治と技術の融合が地球に対してできることORF2007 Report

11月22日、東京・港区の六本木アカデミーヒルズでORF2007が開幕した。メインセッションでは、元宇宙飛行士の毛利衛氏、金融・経済財政政策担当大臣を歴任してきた竹中平蔵氏らによる討論会が行われた。

» 2007年11月22日 21時24分 公開
[柿沼雄一郎,ITmedia]

 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)が研究成果を披露するORF(Open Research Forum)2007が11月22日、東京・港区の六本木アカデミーヒルズで開幕した。さまざまなゲストを迎えて現代のイノベーションについて論議が交わされるメインセッションでは、元宇宙飛行士の毛利衛氏、金融・経済財政政策担当大臣を歴任してきた竹中平蔵氏らが登場する討論会が行われた。

 「地球の科学技術を考える」と題されたこの討論会では、宇宙飛行士で日本科学未来館館長の毛利衛氏、慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所 所長の竹中平蔵教授、慶應義塾常任理事の村井純教授という3人によって、世界の中で日本が果たすべき役割や、21世紀の技術政策のビジョンなどが多様な視点から語られた。

左から慶應義塾常任理事の村井純教授、宇宙飛行士で日本科学未来館館長の毛利衛氏、慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所 所長の竹中平蔵教授

 会場では日本科学未来館と結んだ高解像度映像の双方向中継が行われた。中継映像を利用して毛利館長が説明を行ったのが、およそ100万個のLED(発光ダイオード)を使ったパネルが表面に貼り付けられた直径6.5mの球体ディスプレイ「Geo-Cosmos(ジオ・コスモス)」の展示。地球の姿が表示され、その上で地球温暖化のシミュレーションが行われた。現状のまま二酸化炭素の排出を続けていると、西暦2100年の地球の温度分布は現在より10度以上も高くなる地域が大部分となり、毛利氏によれば「多くの生命が奪われる状態」になるという。

Geo-Cosmos 日本科学未来館で展示されている「Geo-Cosmos(ジオ・コスモス)」による温暖化シミュレーション。ネットワークによりハイビジョン画質で中継された。黄色い部分が現在より10度以上高い気温を示す。白色はさらに12度以上高いところとなる

 こうした危機に対して、「可視化によっていち早く実感することが重要」と説いたのが竹中氏だ。可視化プロセスの重要性には以前から注目しており、経済政策担当大臣時代に、一分間に生まれている国債の金利がどのくらいか説明するために、リュックサックに札束を入れて背負わせて見せた経験もあるという。毛利氏も、宇宙から地球をながめた経験が自身の地球に対する実体感を生み、真剣に地球の問題へ取り組むきっかけになったことを明かす。村井氏も、可視化をして「分かる」ということが「知」となり技術となって、今後の未来を作る糧となっていくだろうと語る。

 また村井氏は、技術が社会に対して広く知られていくプロセスも重要であるという。それについて毛利氏は、「ものづくりの得意な日本の科学者が現実のデータを見据えながら技術を作り、社会においては利害関係を超えた世界規模で、スピード感のあるビジネス界でそれを一般の人々に見せていく」という図式化で、ビジネスと政治が科学技術に果たすことのできる役割を強調した。

 しかし竹中氏はこれに対して、「政治経済の世界と技術の世界には完全に隔壁がある」と言う。なぜならば、お互いに何をやっているかがよく理解できていないためだ。これを改革していくためには、相互の知識を併せ持ち、それぞれの中に割って入って理解を促していく人=コミュニケーターの存在が不可欠だと竹中氏。人こそが社会の総合力と説く竹中氏は、こうした人材を育てていくことがSFCの責務であると同時に、多くのほかの大学にもこうした動きを求めたいと力説。村井氏も改めて大学の役割というものを確認したようだった。

 今回のORFのテーマである「toward eXtremes(極みへの挑戦)」についても、毛利氏が慶応義塾大学創設者の福沢諭吉の言葉である『事をなすに極端を想像す(万が一のときのことを常に考えておく)』という一節を引いた。「当時の福沢が考えていた世界は狭かったはず。しかし、今や地球規模あるいは宇宙規模でこうした危機管理を行うことが求められている。それができていなければ福沢さんに叱られるだろう」(毛利氏)と関係者を叱咤激励する一幕も。

 ORF2007は23日(金)まで、東京・港区の六本木アカデミーヒルズで開催されている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ