ユニクロスタンダードをグローバルへ日本のインターネット企業 変革の旗手たち【番外編】

ユニクロのビジネスは、商品の企画・製造・販売のすべてを1社で行う製造小売(SPA)というやり方で知られている。全リスクを自らとり、コントロールすることが強みとなるこのモデルでは、情報システムが担う役割は大きい。ファーストリテイリング執行役員CIOの岡田章二氏に話を聞いた。

» 2008年01月28日 00時00分 公開
[聞き手:堀哲也,ITmedia]

 近年、ニューヨーク、ロンドンなどへとグローバル旗艦店を出店し、世界ブランドの確立を目指すユニクロ。同社のビジネスは、商品の企画・製造・販売のすべてを1社で行う製造小売(SPA)というやり方で知られている。

 各機能を分担しリスクを分散するサプライチェーンに比べ、SPAはリスクが集中するだけに、最新の情報を活用したリスクコントロールが重要となる。それだけに情報システムが担う機能は重要だ。

 ユニクロのグローバル展開に向けたシステム基盤を整えたファーストリテイリング執行役員CIOの岡田章二氏は「組織力なくしてIT投資は成功しない」と語り、商売の本質からぶれないことを心掛けているという。

岡田章二氏 ファーストリテイリング執行役員CIOの岡田章二氏

ITmedia ユニクロは製造から小売まで自社で行うSPAというビジネスモデルで知られていますが、情報システムにはどのようなことが求められるのでしょうか?

岡田氏 ユニクロというのは商品を企画して中国などで製造し、日本に運んで売り切るという垂直統合型のビジネスを行っています。サプライチェーンというのは、一般的に情報を共有しリスクを分散してチェーンをつないでいこうという発想ですが、ユニクロのモデルはメーカー機能とリテール機能を一緒にすることでリスクを集中させて、コントロールしやすくしようという点にあります。

 そのためには、情報を活用してリスクをコントロールしやすくしなければなりません。それだけに、私たちは情報に関する感度をとても重視しています。在庫や店舗での販売状況など、サプライチェーン全体の中がどのような状態になっているのか、次の手を打つ必要があるのか、敏感に反応して手を打てる情報システムが必要になります。

 現在ファーストリテイリングはグループ売上高1兆円を目指しており、ユニクロとしては日本だけでなくグローバル化を進めるとともに、グループ全体としては相乗効果の見込めるアパレルをM&Aして業容を拡大させていく戦略をとっています。

 情報システムは、その中でグループ全体の相乗効果を上げる重要機能の1つにしていかなければならないと考えており、IT部門は持ち株会社のファーストリテイリングへと移り、業務や会社の構造を変えていこうとしています。

ITmedia ユニクロはフリースの成功で急成長しましたが、その後は厳しい時期もありました。2004年にERPを稼働させていますが、何か関連はあったのでしょうか?

岡田氏 1999年に売上高1000億円だったユニクロは、東京に進出しフリースブームによって、2001年には売上高4000億円へ成長しました。世の中全体が低迷している中、2年間で4倍の規模に急成長したのですから、ものすごいことだったのですが、それだけに生産から販売までの全てのキャパシティーが超えてしましました。情報システムも同様で、IT部門は日夜戦いのような状況でした。

 このブームが終わると一端売上は減少しましたが、実力以上に売れていた部分がなくなり、実力のレベルまで落ち着いたというのが実感です。しかし、ブームが終息したとき、われわれはどういった企業体になっているべきか、と考えてきました。売上は小さくなっても在庫を抱えすぎて赤字に転落するようなこともなく、収益性が損なわれることはありませんでした。

 一方でシステム的には、いち早くダウンサイジングに取り組んでおり、スケーラビリティと変化対応に強い環境になっていました。それでなければ、1000億円から4000億円への売上成長を支えられなかったでしょうね。

 2004年に稼働したシステムは第4世代に当たり、2000年から企画をしてきたものです。これは、次の成長を支えるためのグローバル基盤をつくることが目的でした。これまでのシステムは、私たちが持っていた商品管理のノウハウをシステムに落としていけばできたのですが、海外の商習慣に対応するのは難しい。そこで、当時まだ日本語版がなかった米国のERP製品を購入してきて、これをベースに現在のシステム基盤を構築したのです。

 今では有効に機能しており、海外のユニクロやほかのグループ企業にも横展開できています。

ITmedia そんなにも商習慣というのは違うものなのでしょうか?

岡田章二氏 「業務をつくるためにシステムがある。システムが業務をつくるのではない」と話す岡田氏

岡田氏 かなり違いますね。というより、日本が一番独特なのかもしれません。物流ひとつ取ってみても、日本では出荷指示を着荷日指定で出すのが一般的ですが、米国の場合は国土が広く、着荷日指定は難しく出荷日指定が普通のようです。

 当然、決済関係も小切手があり、クレジット決済も日本とは別の会社のシステムと接続しなければなりません。税金となれば、米国では州ごとに税率は異なりますし、一方、英国では子供服には税金がかからなかったり、物によって税率が違うということがあります。

 われわれで決められるところと、海外の商慣習に合わせないといけないところの両方に対応できるシステムにしておかなければならず、苦労しました。

ITmedia 商習慣も異なれば、さらに現場のオペレーションも変わってきますね。

岡田氏 日本のユニクロは成長したため人数も多く、やらなければならない管理体系も増えてきましたが、海外はまだ1カ国当たり10〜20人の本部人員で運営しています。1人のオペレーションの範囲やスキルも変わってきます。日本のユニクロがやっていることを同じシステムでやらせてしまうと、海外の運用がヘビーになり業務が破綻してしまいます。

 このようなグローバル展開などあり得ませんから、こうした内部要因も当然システムに折り込まなければなりません。一般のパッケージのようにやるなら簡単ですが、日本のユニクロの業務システムを事業規模やオペレーションレベルの違う国に実装するのは確かに苦労しました。しかしこれを何とか乗り越え、今では1つのシステムでグローバルをサポートできるようになっています。

ITmedia インターネット展開も積極化していますが、ネットというチャネルをどう考えていますか?

岡田氏 ファーストリテイリングにとってもユニクロのような各事業会社にとっても、現在最も重要なチャネルだと思っています。

 例えば、ファーストリテイリングにとって株主は重要なステークホルダーであり、IRという点でもインターネットは非常な接点です。この分野で2007年はベスト企業賞をいただきました。

 また、私たちの生活の中でインターネットの使用は自然なことになりました。週末に子供がスケートに行きたいと言われれば、インターネットでスケート場を調べて写真を見て、と決めます。レストランを探すのにもインターネットを利用します。

 ユニクロを振り返ってみても、今まではテレビCMやチラシを見て来客があるのだろうな、と考えてきましたが、インターネットを見て来店される方が増えています。反対に店舗で商品を見て、家に帰ってからインターネットで購入する人もいます。そこで現在のユニクロのサイトはプロモーションの情報だけでなく、着こなしなど新しい商品やクオリティを見せるための取り組みも行っています。

 投資という面でも、チラシに比べ、インターネットは世界に発信できるという点で効率的です。チラシは1枚幾らですから、2000万枚、3000万枚と配るとものすごい額になってしまいます。今後投資の効率を上げていくには、このような状況の変化に応じてマーケティング投資の配分も見直さなければならないと思います。

ITmedia 最後に、CIOとして心掛けていることがあれば教えて下さい。

岡田氏 繰り返しになりますが、IT投資だけでは会社の利益にはなりません。それを運営していくための組織の力や業務ルールがあって初めて有効になります。それがないのにIT投資をしてしまうと、反対にオペレーション負荷ばかりが上がって無駄になってしまいます。

 ITを考えるには、会社としてまた業務として、そもそもどうあるべきかを考えておくことが非常に重要です。それは単純に「商売の軸からずれない」ということなのだと思います。

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