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» 2008年02月05日 00時00分 UPDATE

日本のインターネット企業 変革の旗手たち【番外編】:紙ではまねできないネット雑誌のニッチ戦略

ネット雑誌というと、既存の雑誌コンテンツをデジタル化したものをイメージする人も多いだろう。小学館のライフスタイル誌「SooK」は、扱うテーマや読者層を絞り込み、有料でネット上でのみ展開する挑戦的な雑誌である。その狙いを今井田編集長に聞いた。

[伏見学,ITmedia]

 2007年6月に創刊されたインターネットマガジン「SooK」は、アラビア語で「市場」を表す「SOUK」と英語の「BOOK」を組み合わせた意味を持つ。そのコンセプトに込められた想いを今井田光代編集長に聞いた。

インターネットマガジン「SooK」の今井田光代編集長 インターネットマガジン「SooK」の今井田光代編集長

ITmedia まずは今井田さんの略歴と、SooKの立ち上げについて教えてください

今井田 「BE-PAL」「サライ」「Lapita」「駱駝」などのライフスタイル誌にこれまで携わってきました。SooKのスタッフにもライフスタイル誌経験者は多いのですが、私たちはこういった雑誌を長い間作ってきて、また昨今出版不況が言われる中で、これまで通り紙雑誌の形だけで売るのは難しいと感じるようになりました。一方で、出版社でもインターネットを使った情報発信やビジネス展開の需要が高まっており、もはや紙だけにこだわる必要はないのではと考えるようになりました。そこに可能性を見出し、まずはSooKを始めてみようということになりました。

 立ち上げにあたり、これまでやってきたものよりも、さらに狭いジャンルに目を向けたライフスタイル誌を作ろうということで、今の7誌(「フォーマルの流儀」「Designer’s Style」「農家に棲む」「ダーウィンのひ孫」「昔、売ります」「江戸前の手引き」「渚でくらす」)を創刊することになりました。

ITmedia ターゲット層は40〜60歳の男性としていますが、あえて対象を狭めた理由は?

今井田 紙雑誌の場合、どうしても多くの人に読んでもらおうと総合誌的な作りになりがちで、1つのことを掘り下げていくのは難しくなってきます。一方で、ネット上の情報を見ると、1つの、非常にこだわった狭いテーマに関する深い情報がネット利用者に求められていることが分かります。おそらく、広い範囲を1冊にまとめるという雑誌の手法はネットに適さないのでしょう。つまり、紙では狭く深くということがやりにくいですが、逆にネットではニッチでなければ成立しないという考えがありました。

 中高年といっても、今の40〜50代は十分ネットを活用しており、ネットに対する抵抗はないと思います。もちろん最もネットを利用しているのは若い世代かもしれませんが、SooKで扱うテーマ自体は若者向けではありませんし、逆に今ネット上で大人が楽しめるような情報誌が少ないので、彼らに向けたものが受け入れられるはずだと考えました。

今井田氏

ITmedia 有料のネット雑誌というのは珍しいですが、収益モデルはどのようなものですか?

今井田 会員登録、広告、書籍販売という3つをビジネスモデルの軸にしています。書籍販売に関しては、これまでやってきた連載をまとめて単行本やムックにして刊行します。予定では、2008年3月にコミックと宝石関係の本の2冊を初めて発売します。まだ創刊から1年も経っていないので、連載をまとめて書籍にするだけのボリュームのものは多くはありませんが、夏以降に数冊刊行の予定もあり、今後は書籍販売でも収益を上げていきます。

ITmedia 現在は7誌ですが、今後刊行点数を増やしていくご予定は?

今井田 もちろん検討しています。今の7誌についてもずっとこのままの形でやっていくのか、あるいは方向性を変えるべきなのかなどは柔軟に考えています。もっと専門的な雑誌、例えば「健康」や「エコロジー」に特化したものや、鉄道マニア向けの雑誌なども面白いかもしれません。どんどん刊行点数を増やしていき、SooKという文字通り、雑誌がたくさん並んでいるサイト(雑誌の市場)を作っていきたいと思っています。また、SooKのサイト内で「サライ」や「駱駝」など大人誌の一部が自由に閲覧できるようになっています。今後はこのように紙との連動にも力を入れていくつもりです。

ITmedia ネット雑誌の中でもSooKの見せ方は特徴的だと思います。

今井田 紙雑誌のコンテンツ内容をネットで読めたりするのは他社でもありますが、紙雑誌の形態(インタフェース)のままネット上のみで展開しているのは、恐らくSooKが初めてだと思います。

 今SooKが使っているページめくりのインタフェースは、もともとネットで目にしたのがきっかけでした。インタフェース自体も含めて「ネット上でもこういう見せ方ができるのだな」と感心しました。それまでは、横書きのテキストをスクロールして読むようなものばかりでしたから。本の形状をネットで実現する上では大変参考になりました。

ITmedia するとインタフェースにはこだわりがある?

今井田 最初は面白いなと思いましたが、その形だけにこだわる必要もないと思います。読者の意見もさまざまで、本らしくて良いという声もあれば、ネットのスピードに慣れている方だとページめくりでなくもっと早くページが切り替わった方が読みやすいという意見もあります。そのあたりを踏まえてどんどん進化させていきたいと思います。

 こだわりという点でいえば、私たちは記事や写真のクオリティにとても力を入れています。小学館という出版社が読者に対して有料でコンテンツを提供しているという意味で、紙の雑誌がこれまで培ってきた、同じスタンスで作っています。作り手のモチベーションもこれまでと何ら変わりありません。

ITmedia 逆に紙とネットで異なる点はありますか?

今井田 ネットならではという点でいうと、動画や音声が代表的です。実際、SooKサイトでは無料の動画コンテンツも配信しています。ただし、有料で提供しているネット雑誌の中にまでこういうものを入れ込んでしまうと、純粋な雑誌であることから離れてしまうという懸念があります。あくまで雑誌としての内容の濃さで勝負しているので、ネットでできる技術や方法を安易に使わないという選択もあるのではないかと考えています。

 読者とのコミュニケーションでいえば、すぐにメールなどでリアクションが返ってくるため、紙よりも容易に双方向のやりとりができるようになりました。海外に住む読者へリーチできる点も大きいです。日本と同じ発売日、同じ価格で提供でき、リアルタイムで意見をもらえます。読みたい読者の手元に確実に届くという点では、ネット雑誌の可能性は紙とは比べ物にならないほど広がります。

今井田氏

ITmedia 紙とネットそれぞれの雑誌に携わってきましたが、編集者として心がけていることは?

今井田 ずっとライフスタイル誌や趣味の雑誌をやってきて思うのは、その世界を好きになり、本気で面白いと思えるようにならないと良い企画も生まれませんし、読者の共感も得られないということ。読者の方が詳しかったり、情熱を持っていたりするジャンルに対して、ビジネスライクに相対しているとすぐに見破られてしまいます。この点を常に心がけて仕事をしています。そうすれば、自然と情報が集まってくるし、人脈も広がります。自分自身のフットワークも知らず知らずのうちに軽快になっています。

ITmedia 最後に、オンラインメディアの将来性について考えをお聞かせください

今井田 広告は急速にネットにシフトしていますし、人々も情報をネット上に求めてきています。しかし、正確な情報となると、まだ紙の雑誌や書籍を活用することが多いです。本当に正しい情報を知ろうと思った時、ネット上に自分にとって信頼できる媒体が増えれば、いずれはネット情報に対価を払うことが当たり前になるのではないかと思います。そういう意味では、出版社にとってもネットメディアの中にプロの編集者が責任を持って編集したものを発信していくのは価値のあることだと思います。まさに、SooKがその第一陣のチャレンジなのです。

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