CRMの新潮流

「おサイフケータイ」ビジネスの将来像アナリストの視点(1/4 ページ)

「おサイフケータイ」が決済ツールとして本格的に普及してきた。サービス展開する企業側としては顧客の囲い込み手段にもなる。おサイフケータイビジネスの将来像を探る。

» 2008年08月04日 08時00分 公開
[松枝秀如(矢野経済研究所),ITmedia]

 矢野経済研究所は「おサイフケータイ」市場について調査・研究を行った。ICカードとともに決済ツールとして取扱高を飛躍的に増大させていく同サービスに関して、通信事業者(キャリア)とICカード関連ベンダー、携帯端末ベンダーの実態と将来の見方を横断的に俯瞰、有力プレーヤーの動向から市場全体の将来を展望した。

2008年度までの概況

 おサイフケータイの利便性はもはや社会的に広く知られるものとなっており、既に重要なインフラとしての役割を担い始めている。交通サービスがその最たるものとしてサービス全般を引っ張ってきた感はあるが、格納されているそのほかのさまざまな機能もまた、近年その存在感を示し始めている。

 例えば、量販店のポイントカードや各種プリペイドカード、会員証、クレジットカードなど、爆発的に増えたカード類の持ち運びや管理は、消費者にとって大きな負担となっていたが、おサイフケータイによって、それらサービスを日常的に持ち歩く携帯電話に一本化することができるようになった。

おサイフケータイの魅力と課題

 従来のカードに比べておサイフケータイにはさまざまなシステム特性がある。主要鉄道会社の提供する携帯電話機能を利用した決済システムや、電子マネー利用履歴/残額などの液晶画面での確認、また大手クレジットカード会社による多様なクレジットカード会員証が一つのアクセスポイントに収納できるサービスや購入履歴の確認、多様な特典を受けられることなどがある。これらはおサイフケータイシステムの持つ可能性のほんの一例にすぎない。

 その一方、課題として、携帯電話それ自体が硬く、重量もあるため、かざす際にリーダ(読み込み専用機器)及び携帯電話自体に負荷をかけるということが挙げられる。これに対し、電子マネー機能付ICカードであれば、財布・カードケースに収納したままでの決済が可能であり、リーダ側にダメージを与える可能性は低い。

おサイフケータイのビジネスモデルとインフラへの課題

 おサイフケータイビジネスは、当初、おサイフケータイアプリケーションをダウンロードする際に発生するパケット通信料ぐらいしか見当たらず、参入企業各社がどのようにして利益を確保するのかが明確ではなかった。しかし現在は、確固とした収益性を見出した金融、交通、小売分野など、さまざまな分野への広がりをみせている。

 おサイフケータイビジネスの根源は非接触ICカードであるが、2001年、国内最初の非接触ICカード鉄道系サービス、IC乗車券「Suica」が開始されて以来、その明快な利便性とユーザーサイドの使い勝手の良さが支持を集め、その後の各私鉄間による連携の結果、急速に普及が拡大している。

 一方、このような鉄道系の躍進の反面、おサイフケータイビジネスのメインソリューションとなる電子マネーの標準化への道のりは困難を極めている。多くの電子マネービジネス参入企業各社は、自社サービスでインフラを築きたい、もしくは限界まで自社サービスで付加価値を訴求したい、という思惑が先行し、ポストペイ、プリペイド方式はもとより、リーダライタの独自の規格やサービスの複雑化など、インフラ整備は困難な状況に陥っている。

クレジットサービス・小額決済と携帯電話事業者の戦略

 携帯電話を使用したクレジット決済分野には、収益性の観点からも大きな可能性がある。一人の顧客に対し、携帯電話事業とクレジット決済事業からというふたつの収益が発生することで、従来の2倍の価値を持つことになる。従って携帯電話事業者にとっては、クレジット決済事業に取り組むことで大きな相乗効果が得られる。そのため、携帯キャリアはおサイフケータイを足がかりにした金融決済分野への進出に非常に積極的であった。

 しかし、その一方で、携帯キャリア間におけるサービスの競合が、今日のおサイフケータイサービスにおけるユーザービリティの実現に悪影響を及ぼしていたといえる。こうした状況を受け、主要クレジットカード会社及び、大手携帯キャリアは2005年10月、おサイフケータイビジネス決済の共通化を目指す「モバイル決済推進協議会」を設立したのである。

 しかし、このような歩み寄りに対する取り組みがあるものの、モバイル決済推進協議会においても、実際にはなかなか足並みが揃わないのも事実である。

流通分野の躍進

 約60兆円の少額決済市場は、参入企業各社が激しく競合する魅力的な市場であり、新規参入企業も後を絶たない。

 例えば、強力な既存インフラを保有する後発企業が台頭してきており、なかでも大手小売流通チェーン店で利用できる電子マネーが伸張している。今後はほかの電子マネー規格と共通の決済端末を設置しているグループ外店舗での利用も計画しており、こうした取り組みはおサイフケータイビジネスの拡大の一役を担うと期待される。

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