到達から探査、そして有人へ――火星探査今昔物語日曜日の歴史探検(1/2 ページ)

有人火星探査が発表されて20年がたとうとしています。映画「WALL・E/ウォーリー」さながらに火星で人類を待つ火星探査機は、あとどれくらいで人類に再び会うことができるのでしょうか。

» 2008年11月30日 05時00分 公開
[前島梓,ITmedia]

 まもなく公開されるピクサの新作映画「WALL・E/ウォーリー」に登場する主人公・ウォーリーは、ゴミ処理ロボットです。この映画は29世紀のお話ですが、現実の世界ではウォーリーそっくりのロボットがすでにひとりぼっちで孤独に暮らしている星があります。今回は、航空宇宙産業の中でもひときわ夢のある火星探査のこれまでを簡単に振り返ってみたいと思います。

30代の方なら火星の人面石に思いをはせた人も多いのではないでしょうか。それだけに、マーズ・グローバル・サーベイヤの写真はある意味残酷でした(Image: NASA/JPL/Malin Space Science Systems)

 航空宇宙産業は各国の軍事面と密接に関係することが多いため、あまり情報が公に語られることは少ないのですが(それでも最近はオープンになってきた方です)、通信機器技術をはじめ、日々技術の進化が見られる産業でもあります。

 筆者の経験上、航空宇宙産業にあまり興味がない方に火星にかんする話をすると、面白いことに2種類に分かれる傾向があるようです。1つは、英国のSF作家、ハーバート・ジョージ・ウェルズの小説『宇宙戦争』に登場する火星人、つまりタコ型火星人の話題、もしくは1976年にバイキング探査機が撮影した、通称「火星の人面石」の話題で盛り上がるケース。もう1つは、2004年に火星に着陸したマーズ・エクスプロレーション・ローバあたりの話題です。前者は「火星にも生命が存在するのかも」という思いを、後者は現実としての火星を認識したという点で記憶に残る出来事だったからなのでしょう。ちなみに、火星の人面石についてはその後、マーズ・グローバル・サーベイヤが2001年に撮影した写真によって、今日では人工物ではないと考えられています。

 2003年にNASAが打ち上げたマーズ・エクスプロレーション・ローバ。火星表面の地質構造や鉱物組成などの探査を目的に「スピリット」「オポチュニティ」と名付けられた2台のローバが火星に降り立ったのは2004年1月のことでした。ほんの数年前ですが、このころ、これらのローバから送られてきた火星の写真がメディアに多く登場したのでご記憶の方も多いでしょう。ウォーリーそっくりのローバが秒速数センチという移動をくり返し、数多くのデータを地球へと送ってきました。

マーズ・エクスプロレーション・ローバ。まさに機械、といった感じですが、拡大すると何だか神々しいですね(Image: NASA)

 実は、スピリットの方は当初トラブルが連続で発生していました。メモリアロケーションエラーによる再起動のループが原因だったのですが、現場の技術者は寝る間も惜しんで対策を練っていました。結果として2台とも今日まで働き続けることになるのですが、スピリットとオポチュニティの活躍が火星探査で果たした役割は大きいといえます。

 面白いのは、ローバのハードウェアスペックです。マーズ・エクスプロレーション・ローバでは、頭脳となるCPUには、PowerPC系の耐放射線型RAD6000チップを、メモリは128Mバイトと今日から考えるときわめて貧弱なハードウェア(といっても計画立案時では高性能だったのですが)で、高度な処理が求められました。このころ、宇宙探査機はJavaベースのプログラムで動いているという事実がJava陣営を大いにわかせました。また、このとき用いられたOSは「VxWORKS」でした。JavaもVxWORKSも、そしてメモリ128Mバイトという制限も、若い方からすると驚きかもしれませんが、そうした状況で最高の成果を出すのが技術者の誉れでもあります。筆者は火星探査のプロジェクトにかかわっていた方々と話す機会がありましたが、その多くが「ソフトウェアはハードウェアの性能をほとんど引き出せていない」と語っていたのが印象深いです。

スピリットから送られてきた火星の大地(Image: NASA)

 火星への到達が可能になった後、火星探査の方針は「水を追え」でした。マーズ・エクスプロレーション・ローバ計画の後、より詳細な調査のために「SCIM」「ARES」「Phoenix」「MARVEL」といったそれぞれ目的が異なる提案が出され、NASAは2003年8月にPhoenix計画を実行に移すことを決定したわけですが、実は、それぞれ前のプロジェクトと密接に絡んでいます。例えばSCIMは、マーズ・エクスプロレーション・ローバの延長線上にあり、その目的は地球にサンプルを持ち帰ることにあります。

 これまでの調査で、水の存在が確からしいと分かったことで、火星が生命に適した環境なのかどうかが研究の焦点となりつつあります。つまりこれは、火星への有人飛行に向けた基礎研究フェーズであるといえます。有人火星探査は1989年にブッシュ大統領が発表していますが、あれから20年がたとうとしている現在も基礎研究フェーズに移ろうかというところなので、全体的に遅れが否めません。また、オバマ次期米大統領が有人火星探査にあまり乗り気でないようにも見えますので、米国の今後の動きが気になるところです。ほかの国々も火星探査を進めており、それらの一部はこちらのページなどで参照できます。では、日本の火星探査はどうなっているのでしょうか。

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