コラム
» 2008年12月25日 16時45分 UPDATE

闘うマネジャー:リーマン・ショックと「ながさきITモデル」

7年の期間をかけて構築してきた「ながさきITモデル」。少しずつではあるが、地元企業に変化を起こしつつある。

[島村秀世,ITmedia]

地方のシステム開発企業の実態

 リーマン・ショック以降、長崎県議会では中小企業対策が話題の中心である。筆者の担当する情報部門でも、リーマン・ショックは色濃く出始めた。今までは「県庁の仕事はもうからない」として、全く顔を出さなかった企業が、ここに来て入札に意欲的だ。入札説明会には以前の2〜3倍の企業が来ている。直接聞いていないので推測でしかないが、大手からの下請けが急激に無くなったためと考えられる。

 「こういう時こそ、ITによる効率化で……」と記事だけは毎日たくさん出るが、現実は異なる。長崎の企業の実態は、一次下請けならいい方で、孫請け、ひ孫請けの方がはるかに多い。リーマン・ショック以前は、インドや中国へのオフショアがあったとしても、一次下請がそれなりに忙しかったため長崎へも仕事が回ってきた。しかし今回は円高も重なっているので、長崎の企業はただ切られるばかりだ。

 詳しくは筆者の過去記事県庁HPを見てもらうとして、筆者は、7年の期間をかけて、行政側で詳細な設計書を用意し、その上で発注するという「ながさきITモデル」を構築してきた。そのかいあって、従来からこのモデルに参加してきた企業はそれなりにやって行けている。また、この時期大変な企業であっても、県庁のシステム開発に参加してもらい、もうかることはなくとも雨宿りぐらいはしてもらえる。もちろん、県庁からのシステム発注量が急に増えるわけではないので、仕事を分け合う形にしかならないだろうし、県内の全市町が同じようにするならともかく、県庁だけだから微々たるものでしかないのも事実だが。

俺って何?稼ぐための道具?

 先日、5年ほど前からながさきITモデルに参加している社員10数名の地場企業(以後A社と呼ぶ)の方が来て、「今年は去年よりボーナスを多く出すことができました」と自慢気に帰って行った。県庁でのCurl言語による開発実績をベースにして、リッチ・クライアントに強い企業としてのポジショニングをし、OpenLaszloやFlexにも範囲を拡げた結果、民間システムの受注が順調に推移したからだそうだ。さらに、プラスアルファとして徳島県庁が長崎県のシステムを導入しているので、その移設作業もボーナスアップにちょっとだが貢献したらしい。

 5年前、A社は開発要員派遣型の下請け企業であった。長崎に仕事を持ち帰って仕事をしたくとも、顧客は「こちらで働いてもらうのでなければ……」と条件提示するため、派遣に応じざるを得なかったからだ。だが、派遣をしていると、その社員が数年もすると辞めていく。帰属意識が希薄だからと言えばそれまでだが、「派遣先で夜遅くまで働かせておいて、サポートがまるでない!」と気持ちが荒むことから始まって、最後には仕事がつまらなくなってしまうからのようだ。いくら仕事をしても、「納期になんとか間にあったよ。ありがとう。長崎に帰って休んでください」ではなんだか寂しいばかりだし、長崎に帰っても会社では人が入れ替わっていて、知っているのは社長だけでは、「俺って何? 稼ぐための道具?」と考えてしまっても仕方がない。

業務を「聞く」と「聴く」の違い

 SEなら誰もが仕事を大事にしている。大事にしているからこそ、ユーザーから「すげー便利だし、カッコいい」と言われると、思わず天にも昇る気持ちになる。人は、ほめられたい、認められたいと思うが、大事なのは「誰に」認められたいかだ。業界のITプロに認められるのならともかく、派遣先から認められたって「稼ぐための道具としてはいい方だ」というのに過ぎない。

 A社は、「誰に」に気付き、今のままではまずいと方向転換した。落札を皮切りに、徐々に県庁職員の信頼を勝ち取っていったのだ。彼ら自身、上手に話せるわけでもなかったし、県庁職員だってSEが分かるように話せるわけではない。ただ、大手ベンダーにはない誠実さがあった。大手ベンダーのSEは、業績評価の悪しき影響だと思うが、利益誘導傾向が見られるし、自社のカタログから離れることを嫌う。だからなのだと思うが、業務を聴こう、知ろうとするA社に、職員は誠実さを見たようだ。7年もながさきITモデルを推進しているので、県内で設計を任せられるSEはそれなりに育っているが、その中でもA社は群を抜くまでになっている。他社との差は、「聞く」と「聴く」にあるようだ。

 結局A社は、2年近くの期間をかけ、派遣に出ていた職員を呼び戻し、長崎で開発を行うようになった。誰に認められたいかを選んだ彼らのモチベーションは高い。

 一方、他社はどうだろう。今となっては懐かしい、BtoC、BtoBの時代であったから、仕事はいくらでもあり、もうからない仕事など無理してやるものではないという雰囲気だ。会社、ひいては社員のため、収益の見込める仕事を選んでいる。もちろん、筆者はこれが悪いという気はサラサラない。ビジネスなのだから当たり前のことだ。しかし、誰に認められたいかはあいまいなまま過ごしている。

 さて現在、モチベーションはどうなっているだろう。

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プロフィール

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しまむら・ひでよ 1963年3月生まれ。長崎県総務部理事(情報政策担当)。大手建設会社、民間シンクタンクSE職を経て2001年より現職。県CIOとして「県庁IT調達コストの低減」「地元SI企業の活性化」「県職員のITスキル向上」を知事から命じられ、日々奮闘中。オープンソースを活用した電子決裁システムなどを開発。これを無償公開し、他県からの引き合いも増えている。「やって見せて、納得させる」をマネジメントの基本と考える。


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