コラム
» 2008年12月30日 14時55分 UPDATE

Next Wave:ITサービスのパラダイムシフト――2009年に引かれるトリガー (1/2)

2009年以降何が起こるかは、結局のところ誰も分からない。しかし、いたるところで「既成概念の破壊」と「新しいパラダイムの構築」が起こりそうな気配だ。ITサービスはどう変わるのか。セールスフォース・ドットコムの宇陀栄次社長に聞いた。

[大西高弘,ITmedia]

社会・経済に大きなインパクトが起きたとき

 CRM、SFAのサービスをオンデマンドで活用するサービスからスタートしたセールスフォース・ドットコム。現在ではCRM、SFAという枠組みを超えて、ERP、HRM、SCMといった業務の中核となるシステムをユーザーが自ら構築したり、既存のアプリケーションを利用するなどして、ビジネススピードを飛躍的に向上させるプラットフォームを提供している。同社は2008年に最も注目されたテクノロジーの1つであるSaaS(サービスとしてのソフトウェア)、PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)ベンダーの中心的存在であり、ユーザー数は全世界で5万1800社(2008年10月末現在)に上り、日本では日本郵政グループや損保ジャパンといった大手企業から、中小企業まで多くの企業が活用している。グローバルで展開するITサービス企業の日本法人のトップであり、米国セールスフォース・ドットコムの上席副社長も務める宇陀栄次氏は、いまの混迷状態をどう見ているのかを聞いてみることにした。

 まず宇陀氏は一連の経済的な危機を「クラッシュ」と呼んだ。まさにそうである。クラッシュの後の停滞、収縮、沈没……。そんなイメージを想起させるできごとが世の中にはあふれている。しかし宇陀氏は次のように続ける。「こうしたできごとは、経済・社会的なインパクトとして考えられる。大きなインパクトが起きたときは、新しいテクノロジー、サービスが生まれやすい。また小規模だった市場が急激に成長するきっかけにもなる」

 例として出すのは不謹慎かもしれないが、としながら宇陀氏は1995年の阪神・淡路大震災のことを語りだした。

 「当時、私は大阪にいました。何が起こったかというと一時的に通信が不能になった。ただし携帯電話ではどうにか連絡をつけることができた。そのころは私自身は携帯電話を持っていなかったけれど、大きなインパクトがあった。おそらく多くの人が携帯電話というものについて強烈な印象を持ったのだと思います。私の記憶では99年にiモードが爆発的に普及していきましたが、この下地を作ったのが95年のインパクトだったことは間違いないのではないか」

 震災発生当時、家庭内の電話も近所で見慣れた公衆電話も全て不通になってしまった地域が広範囲に広がっていた。未知の経験をしたときに、いつもなら簡単にできることができなくなる不安と恐怖は強烈なイメージとして残る。それが「高級な機器」として認識されていた携帯電話を、一気に一般に浸透させていくエネルギーになったとも言える。

 「ダメージだとか、危機なんて誰も求めてはいない。しかしこうした状況は一定期間の中で必ず起こるものだということは、うすうすみんな感じていることではないですか。ずーっと調子が良いままだったら、何かを変えていこうとは思わない。いままでのやり方でいいじゃないか、となりますよ。今、これまでとは違った考え方で新しいことをやろうとしている人はたくさんいるはずです」と宇陀氏は話す。

自動車産業とブロードバンドビジネス

udasan.jpg 「いまこそ新しいビジネスの創出を」と語る宇陀栄次氏

 では、ITサービス企業はどういう対応をしていくのか。宇陀氏は次のように話す。

 「SaaS分野はまだまだ伸びていくと思います。ただ、レガシーのシステムに比べればSaaSの規模は非常に小さい。企業システムの20%から30%をSaaSが担うことになれば、これは大きな存在になったといえるでしょうね。そこに到達するにはもっと変化が要求されるだろうと思います。これまでの方法を踏襲していけば何とかなると思っていてはダメだということです。SaaSビジネスと従来のIT構築ビジネスの違いは、われわれは基盤を作ってはいるけれど、全てのテクノロジーを提供しているわけではないということです。われわれはお客様の意見をどんどんサービスに反映させて、お客様自身が自由に改良したりすることも可能にしている。用意している製品を広げていく従来のITビジネス企業とはそこが決定的に違うのです」

 従来のITビジネスとの違いは、ユーザーが提供されるサービスを利用するだけでなく、自ら参加し便利な仕組みを獲得できる土壌があるということ。だとしたら、それが今後どんなインパクトを市場に与えるのか。宇陀氏は「急速なITのコモディティ化」と答えた。ではコモディティ化の進展は何を生み出すのか。

 「コモディティ化は新しいビジネスを生み出します。自動車産業を見ても分かるでしょう。一部のお金持ちではなく、多くの人が自動車を所有することで、ガソリンスタンドができ、高速道路ができる。関連する産業が成長し、いままで見たこともなかったビジネスが生まれてくる土壌となるわけですね」

 最近の例としてブロードバンドが挙げられるという。

 「ブロードバンドが出始めたころ、『あんなものにインパクトはない。ビジネスとして広がりは見せない』と断言していた人もいましたが、私は絶対に新しいビジネスが起こる大きなきっかけになると思っていました。誰もがブロードバンドを利用して恩恵を受けているし、ビジネスを起こす人もどんどん出てきた。これからさらに10年、もっと新しいビジネスが出てくると思います。既存のビジネスを展開していくだけではなく、新しい分野に進出していく業界も出てくるはずです。当社だって法人向けサービスに加えてコンシューマー向け市場に打ってでる、なんてことになるかもしれない」

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