コラム
» 2008年12月30日 14時55分 UPDATE

Next Wave:ITサービスのパラダイムシフト――2009年に引かれるトリガー (2/2)

[大西高弘,ITmedia]
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大胆な提案を可能にするサービス

 ここまで、勢いを感じさせる発言が飛び出してきたが、それにしても世界全体に広がる経済の停滞感は深く暗いものだ。2009年度第3四半期業績(2008年8月1日〜2008年10月31日)で売上高は前年比43%増、導入企業数は前年比36%増という好調ぶりを示した米国セールスフォース・ドットコムの上席副社長も兼任する宇陀氏にあらためて、同社のビジネスについてたずねてみた。

 「楽観しているわけではないですが、全体としてはまだまだ新しいニーズを掘り起こすことができると考えています。われわれは『ロングテールアプリケーション』と呼んでいるのですが、勘定系や大規模なシステム以外のアプリケーション群をユーザー企業は大量に保有して維持コストもかかっているわけです。どこで誰がどのように使っているのか分からない、管理しきれないというものですね。これらをSaaSあるいはPaaSの上に移していこうというニーズはこれからどんどん広がっていくと考えています。グローバル企業であれば、こうしたロングテールアプリケーションの維持コストに数百億円規模の額をかけています。これらを仮に20%削減することができれば、それだけで大きなインパクトといえるでしょう」

 別のプラットフォームに移行するだけで20%以上のコスト削減、というのは顧客に対して非常に大胆な提案になるだろう。宇陀氏のもとには、多くの大企業のCIOから同様の意見が届いているという。だとすれば、大規模かつ複雑なシステムを抱える企業が、メインフレーム、オープンシステム、PCサーバーと同列にSaaSやPaaSをプラットフォームとして認知しているということになる。「データベースやワークフローなどのデータ項目がきちんと整理されていれば、移行に手間取ることもないと踏んでいるユーザーも多い」と宇陀氏は話す。

根強い固定概念を突き崩す

 SaaSという言葉はこの1年でかなり浸透したといえる。しかし、宇陀氏の実感ではまだまだ、だという。

 「自社システムは自前で構築という固定概念はまだ根強いですよ。しかし、本社ビルから移動手段、食事にいたるまで、自社でそろえる会社なんてないでしょう? 複合ビルに賃貸料を払って入り、出張ではタクシーを使い、会社で昼食会をするならどこかに注文をするわけです。何から何まで自前で作って用意するなんてことはどこもしない。ところが、ITシステムとなると、すべて自前でという発想が強く残っている。その考え方を全否定するつもりはありませんが、SaaSを活用して低価格、高品質な仕組みを素早く構築してビジネスを進める部分は、もっと豊富に残っているはずですよ」と宇陀氏は話す。

 基幹システムは従来のシステムを残し、フロント部分はSalesforceでというユーザーもいる。既存システムとの連携でも当初不安視していたが、短期間で稼働できるようになったと語るユーザーも多数いる。要は、どういう形であれ、利用できる部分はとことん利用した方がコスト負担も軽減できるというとなのだ。

 ただ、「低コストで高品質」「既存システムとの連携もスムーズ」といったフレーズだけではユーザー企業へのアピールはまだ不十分だと宇陀氏は考えている。こうしたフレーズはSaaSベンダーとは対極にある従来のITベンダーもさかんに使っているからだ。圧倒的な差別化をするにはまだインパクトが足りないということか。

 ここで、宇陀氏は面白いたとえ話をしてくれた。

 「パッケージベンダーが柔軟で低価格、高品質なシステム構築という場合は、鉄骨が組み上がっただけの状態のビルの前に立って、『さぁ、これからどうしましょうか』というようなもの。われわれはすでに配管や電気・回線設備まで済ませてあって、あとは内装をどうしましょうかというところから始まるわけです。カスタマイズもやりますよ。蛇口を付け加えたり、電灯の位置を変えたり、コンセントを増やしたりすることもする。もちろんあらかじめパーティションまで区切って備品も用意して、明日から使える状態のところに、すぐに『入居』することもできます」

 SaaS、PaaSを活用するイメージはまさに、ITのコモディティ化の先にあるものなのだ。鉄骨を組まれただけのビルに配管、電気・通信配線、壁、床から天井まで自前で作るという方法は、どんな企業でも選べる方法とはいえない。

サービスとクオリティと価格の関係

 SaaSは不況が一層深まる中、追い風が吹いている数少ないITサービスといえる。しかし、まだまだ市場を活性化させるインパクトが必要だと宇陀氏は考えているようだ。

 「今のIT業界にはシステムを作る人とコンポーネントをデリバリーする人しかいない」と宇陀氏はいう。ITサービス企業がパラダイムシフトをしていくには、さらに多くの人たちや企業がかかわっていく、多種類の役割を担う人たちが参加する市場にしていく必要があるということなのだろう。

 自動車という乗り物がコモディティ化していく過程で、周辺の産業が大きく変化し成長していったような現象がITサービス業界に起きるか、どうか。なんだか話が大きくなってきた。しかし「パラダイムシフト」というものは本来そうしたものなのだ。

 宇陀氏はSaaSビジネスにおいて、今後「サービスとクオリティと価格の関係」に大きな変化が起き、その3つの要素のバランスをうまくとっていった事業者が、より多くの成果を上げるだろうと話す。

 「1泊80万円のホテルの部屋を使いたい人と1カ月5万円の家賃でいいという人、双方にそれぞれ納得できるサービスメニューを用意できるかということです。例えば1泊1万円の部屋なのに、スイートルーム並みのサービスを要求されても、サービスを提供する側は困ってしまうわけですよね。いろいろなニーズを持っているお客様にそれぞれはっきりとした値ごろ感を作ることができるかということ。これからのITサービス企業の課題はそこにあるのだと思います」

 2、3人の社員からスタートした会社と100人規模、1000人以上の規模の企業とはITサービスに求めるものは違う。それは当たり前といえば当たり前のことなのかもしれない。しかし、そうしたニーズの違いに本当に応えてこれたのか、そして今後応えていくことができるのか、メニューを取りそろえることができるのか。ITサービス企業はSaaS、PaaSというトリガーを引いたが、次に引くべきトリガーに指をかけるのはどの企業なのだろうか。市場全体を拡大するパラダイムシフトの流れはすでに始まっている。

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