提言5:マネジメントはITサービスから考えよマネジメントイニシアチブ時代に向けて――7つの提言

マネジメントイニシアチブ時代に向けて――本企画では7つの提言について順次、解説している。今回は「提言5」として、「マネジメントはITサービスから考えよ」がテーマ。

» 2006年06月19日 07時00分 公開
[増田克善+アイティセレクト編集部,ITmedia]

サービス提供で最も重要な運用保守部門

 ITの導入を検討するときに従来から行われていることは、業務上の課題の観点から目的の明確化・現状分析・概略設計といった、ITアクウィジションの企画プロセスから手をつけることだ。こうした上流工程のマネジメントによる成果物を基に、詳細設計、開発工程へとプロジェクトが進められていく。コンサルティング会社があるユーザーのIT導入コンサルティングに入り業務プロセス分析を行ったときのことだ。そのユーザーのシステム企画担当者は、まず自らの顧客を起点にシステムを企画し提案する。その後に設計・開発、運用保守という一連のプロセスを描いた。

ところが、それに沿ってOBS(Organization Breakdown Structure)とWBS(Work Breakdown Structure)を組んでいくと、ITサービスを提供する運用・保守で誰が責任を持ってやっているのかわからないという現象が起こった。運用・保守部門にはアプリケーション運用担当やネットワーク運用担当がいても、運用・保守部門の責任者はシステム設計・開発もすべて兼務していたりするからだ。ほとんどの企業が、こうした情報システム部門の責任体制をとっており、運用保守サービスの責任の所在が不明確になっているケースが少なくない。

 また、大手上場企業は保守運用部門を別会社にしていることも多い。システム企画は本社の企画部門、構築は情報システム部とシステムベンダーが分業している。そのため、エンドユーザー(社員)にITサービスを提供するという一番肝心な運用・保守部門が別の世界にいるため、誰が責任をもってITサービスを担保しているのか余計にわからない状態になっている。365日、エンドユーザーが業務遂行するうえでお世話になっている一番大事な部隊のアカウンタビリティとレスポンスビリティが見えていないのだ。ましてや、今後企業改革法やガバナンスの対応の視点から考えると情報関係子会社そのものの位置づけや役割を根本的に見直す時期にも来ているとも言える。

 本来、ITを活用するのはエンドユーザーであって、そこにITサービスを提供する運用・保守部門が最も重要であり、その部分のマネジメントを最初に考えるべきだろう。

ITサービスのマネジメントを重視すべし

 ITというととかくテクノロジーに偏りがちだが、これらを運用・管理し最大の効果を引き出すのは、他でもない人とプロセスである。ITサービス管理者は日々コストの削減や抑制といった課題に取り組んでいる一方で、 高品質なITサービスを提供しなければならない。ところが、それを実現できない原因は、ITインフラ管理のテクノロジーにあるというよりも、役割と責任が不明確なままITインフラ管理を行ってきたこれまでの文化的な側面にあるといえる。「人」「プロセス」「テクノロジー」の視点から調査、分析を行い、改善すべき課題を明確化してサービスレベルを維持していくために、ITサービスのマネジメントから考える必要がある。

 そもそもITサービスマネジメントとは、顧客要件を満たす品質の高いITサービスの計画・開発・提供・維持に必要なプロセスを構築していくアプローチである。したがって、IT導入の川下と考えられている運用・保守だから、ITサービスの提供という視点ではITアクウィジションの上流工程を含むマネジメントが可能になるのである。

 ITサービスのマネジメントは、「提言3」でも述べたようにITILの導入によって実現できるだろう。ITILの基礎にあるのは「ITサービスこそがビジネス、ビジネスはITサービスそのもの」という考え方である。ITサービスをIT部門だけが関係する特殊な要素と考えるのではなく、よりビジネスと密着させて考えるというポリシーがある。SLA(サービス・レベル・マネジメント)をユーザー部門やトップマネジメントと結ぶことを通じて、ITサービスのプロセスだけでなく、ビジネスのプロセス全体を改善することを目的としているのだ。特にITILでは企業の「人」「プロセス」「技術」に関する最適化をめざしている。「人」とは実際にシステムを運営するスタッフや部門長、CIOを指し、「プロセス」はある一定のコストを投下され、期待されるアウトプットを出力するための組織体、「技術」はシステムの構成やリソースの管理、実装などを指す。

 こうしたフレームワークを考えれば、ITマネジメントの実施において企画フェーズから下流工程に—という固定概念にとらわれず、ITサービスから考える視点を持つことを提言したい。

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