足を引っ張りたがる人たち――その深層心理と対処法オープンソースソフトウェアの育て方(1/2 ページ)

あからさまに失礼な態度ではないがプロジェクトの進み具合に悪影響を与えている人たち――こうした人たちは実に扱いにくい存在です。ここでは、彼らはなぜそうするのかを考え、最良の対応について実例を挙げつつ考えます。

» 2009年10月06日 08時00分 公開
[Karl Fogel, ]

扱いにくい人たち

 扱いにくい人たちに対して電子会議室上で対応するのは、面と向かって対応することに比べて多少難しくなります。ここで言う“扱いにくい”とは“失礼な”という意味ではありません。確かに失礼な人たちは不快なですが、彼らが必ずしも扱いにくいわけではありません。本連載では、失礼な人たちへの対処法はすでに説明済みです。取りあえず一言指摘した後は、そのまま無視してしまうか、何事もなかったかのようにほかの人たちと同じよう接すればいいのです。それでも彼らが失礼な振る舞いを続けるようなら、彼らはきっとそのプロジェクトの誰にも見向きもされなくなるでしょう。自業自得です。

 本当に厄介なのは、あからさまに失礼な態度ではないがプロジェクトの進み具合に悪影響を与えている人たちです。彼らはほかの人たちの時間や労力を余計に費やさせるだけでプロジェクトに何の利益ももたらしません。そういった人たちは、プロジェクトを進めるに当たって要となる個所を探してはそこで自分の影響力を誇示しようとします。このような行いは、単に失礼であるだけの人よりよっぽど油断なりません。なぜなら、その振る舞いだけでなくそれによる被害も明白だからです。

 このような行いの典型的な例は、いわゆる議事進行妨害です。進行中の議題について、誰かが(いかにももっともらしく聞こえるように)「まだ結論は見えていない。もっと別の解決策も検討してみるべきだ。違う視点から見直してみるのもいい」といった意見を述べるが、実際のところは既にほぼ合意が取れているかあるいは採決を取る準備ができているといった状況です。

 別の例を考えてみましょう。なかなか合意が得られない議論で、「まずはお互いの意見の不一致を確認してこれまでの議論のまとめを作成しよう」という流れになることがあります。そのまとめを作成した結果、自分が気に入らない方向に進むかもしれないと考えている人は、まとめの作成作業さえも邪魔するかもしれません。妥当な提案に対していちいち反対したり、誰も喜ばないような新たな話題を持ち出したりなどといった手段で粘着してくるわけです。

扱いにくい人たちへの対応

 こうした振る舞いに対抗するには、何が彼らをそうさせるのかを理解することが助けになります。たいていの人は、意識してそのように振る舞っているわけではありません。毎朝起きたときに「さあ、今日も斜に構えて議論をかき乱し、みんなをいらいらさせてやろう」と考える人なんていませんよね。そんな行動に彼らを導くのは、たいていの場合は「自分はこのグループでの議論や意思決定の際に仲間はずれにされているのではないか」という被害妄想です。

 彼らは自分がないがしろにされていると感じています。あるいは(もっと深刻な場合は)自分だけをのけものにしてほかのメンバーだけで何かをしようとたくらんでいると感じることもあります。そう感じている彼にとって、プロジェクトの進行に口をはさんで何とか自分の方に目を向けてもらえるようにすることは完全に正当な振る舞いです。極端な場合は、彼は「自分が戦わなきゃこのプロジェクトはダメになってしまう」と思い込んでいるかもしれません。

 こういった攻撃は、その性質上みんなが一斉に気付くものではありません。人によっては、明白な証拠が現れるまでそれを認めないかもしれません。つまり、このような攻撃を何とか収めるのはそれなりの作業になるということです。何かが起こっていると自分が気付くだけでは不十分で、ほかのメンバーを納得させるだけの証拠を用意する必要があるのです。その証拠を示す際には十分な注意が必要です。

 戦うだけの余力がない場合、取りあえずはしばらく見過ごしておくのが得策です。ちょっとした感染性の病気と同じようにとらえればいいのです。プロジェクトが極端に衰弱していない限り、病気に感染してもなんとかなります。下手に薬に頼ると、何らかの副作用があるかもしれません。しかし、無視できない程度の被害が出始めたら、それが動き出すときです。

 まず、目にしている状況をしっかり書きとどめてください。公開しているアーカイブを参照しましょう。このような場合のためにも、プロジェクトの活動をアーカイブしておくことが大切になります。よい手がかりが見つかったら、次にプロジェクトのほかのメンバーと個人的な話し合いをします。このときに「こんな風に感じるんだけど……」と話すのではなく、まず「最近何か感じることはない?」と問いかけるようにします。トラブルメーカーの行いについて他人がどう思っているのかについて聞けるのは、これが最後のチャンスになるかもしれません。あなたがいったんトラブルのことについて話し始めるとどうしても相手の意見は変化してしまい、もともとどう考えていたのかを思い出せなくなってしまうでしょう。

 個人的な話し合いの結果、同じような問題を感じている人が少なからずいると分かったとしましょう。そろそろ何か行動を起こすときです。このときは本当に用心深くならなければなりません。この手のトラブルメーカーは、しばしば「自分が不当にいじめられている」と思い込んでしまいがちだからです。何をするにしても、「プロジェクトの動きを故意に妨害している」「被害妄想に陥っている」あるいはその他あなたが疑っていることが事実であると決め付けて責めたりしてはいけません。あなたの最終的な目標は、もっと妥当なものでかつプロジェクト全体の利益になるものでなければなりません。

 彼らの振る舞いを改めさせるか、あるいは追い出してしまうか。最終的にはどちらかになるでしょう。あなたとほかの開発者たちとの関係によっては、事前に個別に手を組んで共同で責めていくことも有効かもしれません。ただ、それが裏目に出ることもあります。裏でこそこそと何かをして中傷しているように取られたら、あまりよく思われないかもしれません。

 たとえまずい行動をしたのが手を組んだ相手の方だったとしても、言い出したのがあなたである以上、周りから見ればまずい行動をしたのはあなただということになります。自分のいいたいことを示す例をできるだけ多く集めるようにしましょう。そして、できるだけやさしく紳士的に説得するようにするのです。もしかしたら問題の当事者を説得しきれないかもしれません。しかし、その他大勢の人たちを説得できればそれで十分です。

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