世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

世界で勝つにはキャッシュの管理が不可欠世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(1/3 ページ)

日本企業が海外で成功するためには、財務戦略にも手を付けなくてはならない。まだまだ取り組みは限定的なのが実情だ。勝つためのキャッシュ管理について、アビームコンサルティングの竹内史尚氏に話してもらう。

» 2010年02月26日 08時00分 公開
[竹内史尚(アビームコンサルティング),ITmedia]

 昨今、日本企業の海外売上高比率が急速に伸びる中、財務戦略にもグローバルな視点が必要不可欠になりつつある。グローバルレベルでの財務管理体制の整備においてはいまだ手つかずの企業が多く、商流に絡んだ取引情報の統合管理はERPの導入により比較的進んではいるものの、資金(キャッシュ)/財務取引となると、取り組みがいまだ限定的なものにとどまっている。

 事業先行で拡大続きできたため、本来は事業をサポートするべきコーポレート機能がグローバルレベルで十分に整備されていない。グローバル競争を勝ち残るためには、良い組織と良い事業戦略はもちろんのこと、それらを支える磐石な財務基盤が必要である。

 事業活動のグローバル化は、今後ますます拡大の傾向にある。近年の内部統制強化の要請の高まりとも相まって、財務担当部門においては、国内外に分散された資金、財務取引および財務リスクを統合的に管理するための体制やインフラの整備を急ぐ必要がある。いわゆる「グローバル・キャッシュ(トレジャリー)・マネジメント」の実現だ。

 グローバル・キャッシュ・マネジメントは、グローバル競争を勝ち抜くための財務基盤整備の第一歩となる。

資金・財務管理における最新動向

 先進例に見る企業の取り組み内容を要約すると、クロスボーダー/マルチカレンシーを前提としたグローバルレベルでの、1.資金の一元的な調達・運用(コミットメントライン・グループファイナンス、オーバーナイト等で運用)、2.為替リスク管理と決済の集約化(リインボイス、ネッティング、SSC)、3.資金の集中管理(プーリング)をグループ横断的に実現している。特徴としては、ITの積極的活用(システムの内製やTMSの利用)と財務組織の効果的再編だ。

 ITの活用はもちろん、グローバル財務施策の実施においては、各地域や国レベルでのさまざまな特性を考慮したきめ細やかさが重要となる。多くの先進企業で、主要エリア(米・欧・アジア(シンガポール)・日本・中国でのサポートをにらんだ香港や上海)ごとに財務統括拠点を設置し、十分に権限・機能を委譲した上で、当該地域統括会社が地域特性を加味し、傘下の各現法を管理・指導する、といった取り組みが見られる。こうした財務組織の整備は、地域・国をまたいだ資金移動や財務施策を効率的に行っていくためにも非常に重要となる。

 しかし、こうした取り組みを実現している企業は、日本ではまだ一部だ。

現状とあるべき姿

 アビームコンサルティングでは、海外売上比率が比較的高い日系企業20社以上の財務担当者とグローバル財務管理にかかわる課題や悩み、あるべき姿について議論を重ねてきた。下図は、特に資金管理面に注目し整理した「現状とあるべき姿」だ。

 「戦略/組織/プロセス(業務)/IT」といったフレームワークで「現状」を捕らえていくと以下のような課題が浮き彫りとなる。

  1. グローバル全般の財務戦略・指針の不在(戦略)
  2. 本社財務部のコントロールの不足(組織)
  3. 将来の資金ポジションの未把握(プロセス)
  4. ITの未活用(IT)

 1「グローバル全般の財務戦略・指針の不在」については、手の付けやすいところから個別最適を図ってきたことが大きな要因と考える。結果、地域ごとの取り組みにとどまり、グローバル全般の財務管理スキームが形作られていない。

 ガバナンスやコミュニケーション(海外財務担当との)の不足も課題としてある。2の「本社財務部のコントロールの不足」という問題にも直結する。中には、「海外の財務担当とは十分連絡を取り合えていない。海外現法の資金・財務にかかわる情報も十分レポートされていない」といった企業も散見された。

 3「将来の資金ポジションの未把握」の問題は、自社(グループ)の将来における資金状況を把握できていないことを意味している。これでは財務・資金戦略上の施策(打ち手)が限られる。本社財務部門の責務の1つを「グループ全体の企業価値向上を目的に、事業で稼いだ資金をあらゆる手段で最適化する」とすれば、これを十分果たせていないこととなる。

 最後は4の「IT活用」だ。多くの企業の財務の現場では「データ収集や分析、日々のオペレーションはExcelで実施しており、データの統合や収集作業に追われる」といった悩みを抱える。もっとITを活用することで、余力を創出し、1、2、3といった課題の解消にリソースを振り向ける必要がある。

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