IT業界最大規模となったIntelによるMcAfee買収には、どのような狙いがあるのだろうか。McAfeeでこの買収交渉を担当するエグゼクティブ・バイス・プレジデントのゲルハード・ワッツィンガー氏に、買収の背景や今後の方向性を聞いた。
米Intelは8月、セキュリティ大手の米McAfeeを総額76億8000万ドルで買収することに合意したと発表した。IT業界で過去最大規模となるこの買収を通じて、IntelとMcAfeeはどのような展開を見せるのか。この買収交渉を担当するMcAfee 企業戦略およびビジネス開発担当エグゼクティブ・バイス・プレジデント ゲルハード・ワッツィンガー氏に聞いた。
―― IntelによるMcAfee買収の発表はIT業界以外でも大きな話題になりました。買収の背景にはどのような経緯があったのでしょうか。
ワッツィンガー氏 今回の買収はIntelが一方的に我々に提案したものではなく、両社の協業の歴史から自然の流れで合意に至ったものと言えます。我々とIntelの関係は4年ほど前にさかのぼります。最初はHDDの暗号化処理をハードウェア技術で高速化できないかという研究に取り組み、Intelの技術によって100倍に高速化することができました。
その後も我々とIntelは、ITセキュリティの将来像について議論を重ねてきましたが、PCの世界とPC以外の2つの世界について、今後セキュリティが非常に重要になるとの考えで一致しました。
PCの世界では特にマルウェアの急増が大きな問題となっています。1時間に発生する新種マルウェアは、2008年は500種でしたが、2009年は2000種、現在は5000種にもなっています。5年先、10年先のマルウェア動向を予測すると、OSよりもよりハードウェアに近い領域で新しいセキュリティの仕組みを実現していく必要があります。
PC以外の世界とは、スマートフォンなどネットワークに接続可能なすべてのデバイスを指します。世界には約10億台のPCがあると言われますが、スマートフォンは既に5億台以上も普及しています。スマートフォン以外にもテレビやATM、医療機器、自動車にいたるまで非常に多くのデバイスがネットワーク機能を備えるでしょう。その規模は2013年には500億台以上になるとみています。
こうしたデバイスがネットワークに接続すれば、PCと同じような脅威にさらされるでしょう。例えばインターネットに接続した自動車のコンピュータが攻撃者に乗っ取られた場合、運転者や同乗者に生命の危機が及びます。しかし、こうした機器の多くは組み込み型のOSを採用しており、PCと同じようなセキュリティ対策を導入できません。
チップセットレベルでセキュリティの機能を実装するには、Intelのハードウェア技術と我々のソフトウェア技術の融合が必要になります。これが実現すれば、500億台以上のデバイスに対してセキュリティを提供できるようになるわけです。
―― PCとPC以外のデバイスに対してどのようなセキュリティ技術を組み込んでいくのでしょうか。
ワッツィンガー氏 PCでは、今後もマルウェアやハッキング、詐欺などさまざまな脅威が存在し続けるでしょう。PCに対しては、定義ファイルのように悪意のある脅威を特定し、それを検知・ブロックする「ブラックリスティング」による対策が引き続き重要になります。さらに、現在のウイルス対策ソフトでは検知が難しいルートキットやカーネル内部に潜みこむ不正プログラムの対策が可能になるでしょう。こうした脅威を検知するには、ハードウェアレベルで対処する必要があり、Intelの技術が不可欠です。
PC以外のデバイスは、PCに比べて用途が限られることから、脅威の範囲は狭いと言えます。こうしたデバイスには、許可されたものだけを実行できるようにする「ホワイトリスティング」が有効だと考えています。デバイス全体を覆ってしまうことで、外部からの脅威をすべてブロックするようなイメージです。
―― これらの対策技術が実現するのはいつごろになるのでしょうか。
ワッツィンガー氏 詳細な技術のロードマップはまだ策定していません。規制当局の承認などを得て買収が完了するまでには半年以上かかる見通しです。買収が完了次第、ロードマップの策定に着手する予定です。
―― 販売やマーケティングにはどのような効果があると考えていますか。
ワッツィンガー氏 これらについても、まだ具体像を描いてはいません。やはり買収完了後の作業になると思います。
我々は、直接の顧客に加え、セキュリティサービスで協業するFacebookやAT&T、Verizonなどを通じて10億のユーザーにアプローチできる立場にあります。この強みをIntelと一緒に生かすことができるだろうと考えています。
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