第13回 「経営者は悪さをしない?」という落とし穴会社を強くする経営者のためのセキュリティ講座(1/2 ページ)

社長や役員は最も信頼されるべき立場にあるはず――大半の組織はその前提で事業を営んでいます。会社を牽引する彼らの中に悪意を持った人物がいたとすれば、組織の根幹が揺らぐことになってしまうでしょう。今回は経営者が肝に銘ずべき、「経営者のセキュリティ対策」を解説します。

» 2011年02月15日 07時30分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 前回は悪意を持った社外関係者の脅威を紹介しましたが、今回はその真逆に位置付けられる社内の関係者では最も信頼されるべき役員、そして、そのトップに立つ「社長」におけるセキュリティ対策についてお話します。

会社の存続を揺るがす事件の数々

 企業のトップによる不正によって社会を震撼させるような事件が後を絶ちません。ほんの数年前の出来事を振り返ってみても、読者の中には「そうそう、そういう事件があった」とすぐに思い出される事件が幾つもあるのではないでしょうか。

 食肉偽装が問題となったミートホープの事件では、経営者の指示による不正が次々と明らかになりました。原材料の虚偽やずさんな生産体制など、その内容は多岐にわたり、その結果として、自己破産に至りました。船場吉兆の事件では、高級料亭というイメージからは想像もできないような数々の不正が行われ、消費者の信頼を裏切りました。最終的に大阪府料理業生活衛生同業組合を退会させられ、その後廃業となったのです。カビや残留農薬が基準以上のいわゆる「事故米」を格安に大量購入し、これを菓子や清酒の原料として販売していた三笠フーズも同様です。

 その他にも多数の事例があります。これらに共通しているのは、経営者の指示によって従業員が半ば強制的に加担させられ、会社ぐるみで犯罪行為をしていたということになります。これらの事件はいずれも報道で大きく取り上げられたことで、「経営者による不正」に対する社会の関心が一気に高まることになりました。私の経験では、経営者が悪さをする行為は山のようにあり、それに対する防御が組織としてきちんとできているのかという点では、日本は後進国であると痛感しています。

社長は絶対に悪さをしないもの?

 諸外国の実体を調査した10年以上も前に、ふと気づいたことがありました。それは社長と言われる人間の中には、従業員の意向を無視して高値で会社を身売りすることを目的に経営している人がいるということでした。

 また、日本は中堅以上の企業では「サラリーマン社長」の割合が高く、派閥のバランスだけで「経営のカリスマ性」を持たない人が社長になることが往々にしてあります。こうなると、目先の利益のために長期的な展望を欠く経営となりがちです。本業以外の分野に何の根拠もなく乗り出し、会社自体にとっては損失になるばかりか、屋台骨をも揺るがし、倒産にいたってしまうような事態もあります。前述の事件のように、創業社長やその親族が経営に関わっている場合でも、周りの意見を軽視して耳を貸さないワンマン経営を推し進め、会社を自滅に追いやってしまうケースも多いのです。

 こうした経営者に共通する点は、いずれも個人では「自分のため」に努力しているつもりでも、その方向はあくまで「自己中心」であり、決して会社自体にとっての「最善策」となっていないことがあるということです。時には「自分のため」という方向性と「会社のため」という方向性が真逆になってしまっている場合すらあります。

 経営を担う以上、時には第三者がどう見ても無謀としか思えないような舵取りを迫られる場合もあります。「投資」というよりは、「投機」や「博打」に近い判断をしなければならず、ある程度止むを得ないこととも思います。しかし、その判断はあくまで「合法」であり、「信頼を損なう可能性を極小化」していることが大前提なのです。

 前述した事件の数々は、いずれも明らかに「違法」であり、しかも「信頼を損なう行為」として、全く許される行動ではありません。会社の中で経営者の権限が強すぎると、これを防止する仕組みが消失してしまい、誰も経営者の暴走を止めることはできません。その結果が破綻につながることは、誰が考えても明らであるにもかかわらず、なのです。

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