中小企業の活力を高めるIT活用の潮流 豊富な事例を紹介

業務を標準化しミスを減少、沖縄の印刷業が挑んだ経営改革とは中小企業の活力を高めるIT活用の潮流(1/2 ページ)

長引く不況により、印刷業界、中でも中小・零細企業は厳しいビジネス環境にさらされている。そうした状況下では、業務上の些細なミスが大きな売り上げ損失につながりかねない。業務プロセスをいかに改善するか――沖縄高速印刷でもこれが喫緊の課題であった。

» 2011年04月06日 08時00分 公開
[伏見学,ITmedia]

 沖縄県で唯一海に面していない町、南風原町。この町と那覇市の市境に広がる約1万坪の敷地に「沖縄印刷団地」と呼ばれる産業区域がある。1973年3月に沖縄県第1号の高度化事業として建設された同団地は、当初、「共存共栄」の理念を基に、多くの印刷会社が1つの建物に寄り集まって企業運営していた。現在は、印刷会社7社がそれぞれの社屋を構えて事業展開している。

 その中の1社である沖縄高速印刷は、県内で他社に先駆けてカラー印刷に特化し、東洋インキ製造が開発した広色域印刷技術「カレイド」を導入するなど、高品質の印刷に力を注いでいる。同社は広告代理店からの案件が多く、品質を保ちながらもスピーディーな制作、納品が日夜求められているハードな環境に身を置いている。

 基本的に印刷会社の仕事の流れはクライアント(納品先企業)に左右されることが多い。そのため、残業はもちろんのこと、夜通しで作業に当たる社員も決して少なくない。さらに、長引く出版不況や世界的な景気後退の煽りを受け、印刷業界全体が厳しい経営環境にさらされている。こうした状況下において、社員のモチベーションを高め、事業を好転させていくことが経営者に求められているのである。

対価を得られず泣き寝入りすることも

沖縄高速印刷の大嶺亮一社長。「社員が安定した生活を送れるように奮起するのが社長の役目」と語る 沖縄高速印刷の大嶺亮一社長。「社員が安定した生活を送れるように奮起するのが社長の役目」と語る

 現在、沖縄高速印刷の社長を務める大嶺亮一氏も、そうした期待を一身に背負った一人といえよう。大嶺氏は1993年に大手建設会社から中途入社し営業部に配属となった。異業種から印刷業界に飛び込んできた大嶺氏がまず驚いたのが、受発注において顧客との間に契約の概念がなかったことだ。顧客から注文を受けるものの、仕様書など正確な証拠となるものがなく、仮に顧客が途中で発注内容を変更しても、その対価は得られずに泣き寝入りすることもしばしばあった。大嶺氏の前職である建設業界は、とりわけ業務の標準化が徹底している業界であるため、そのギャップを実に大きく感じたという。

 また当時、沖縄高速印刷の社内はセクショナリズムが横行していた。製造部、オペレーター部、営業部など部門間のコミュニケーションはほとんどなく、業務プロセスに大きな無駄が生じていた。また、担当者レベルにおいては、スキルの違いによって顧客に提出する見積書がバラバラといった事態が散見されていた。「こうした状況を何とか変えたいという気持ちはあったものの、チャレンジすることができずに時間が過ぎていった」と大嶺氏は振り返る。

社長に抜擢、すぐさま改革に取り組む

 そうした最中、転機が訪れる。営業部門でめきめきと実力を発揮し、着実に実績を重ねてきた大嶺氏は、2009年5月に40代前半の若さで社長に抜擢。すぐさま「前々から密かに温めておいた」(大嶺氏)という経営改革に着手する。

 最初に取り組んだのが、社員のモチベーションアップに向けた待遇改善である。それまで同社には第三者が分かるようなしっかりした人事評価制度がなかった。例えば、営業部門であれば個人の売り上げ成績などが給与に反映されるが、事務職は単に出勤率などの勤怠状況でしか評価されてなかった。「社員の満足度を上げるためには、きちんとした評価の仕組みがなければならなかった」と大嶺氏は強調する。そこで、部門ごとの損益を詳細かつ明確に管理するとともに、そこから社員一人一人の業績が評価できるような制度を構築した。

 さらに、これまで一定の基準でカットしていた社員の残業時間をすべて認めることにした。条件として、部長クラスに労務権限を持たせて上長が承認したもののみを残業とみなすようにしたが、これによって、部員と管理職のコミュニケーションが密になり、上長は部下の残業時間や業務負荷などを明確に把握できるようになった。この運用が始まった時点でタイムカードは撤廃し、勤怠管理を部門別にしたことも大きかった。「今後は部長に残業の予算を持たせて、その範囲内で部下の業務負荷をコントロールできるようにしたい」と大嶺氏は意気込む。

沖縄高速印刷の本社 沖縄高速印刷の本社
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