ビッグデータの活用は企業にとって本当に必要かWeekly Memo

今やIT業界の重要なキーワードになりつつある「ビッグデータ」。その活用を促す声は高まるばかりだが、多くの企業にとって本当に必要なのか。今一度、考えてみたい。

» 2012年02月20日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

ビッグデータの活用は未開の領域

 NECが2月13日、ビッグデータ関連事業の取り組みについて記者会見を行い、この領域のさらなる事業創出に向けて、製品・サービスの強化、全社横断の戦略プロジェクトの立ち上げ、専門要員の強化・育成を図っていくと説明した。

記者会見に臨むNECの山元正人 執行役員常務(右)と伊藤晃徳 第三ITソフトウェア事業部長 記者会見に臨むNECの山元正人 執行役員常務(右)と伊藤晃徳 第三ITソフトウェア事業部長

 その具体的な内容については、すでに報道されているので関連記事等を参照いただくとして、ここでは原点に立ち返って、ビッグデータの活用は多くの企業にとって本当に必要なのか、という視点で考えてみたい。

 NECの山元正人 執行役員常務は会見で、同社が考えるビッグデータとして、まず社会の情報量が2025年には2006年の200倍に増加するという調査機関の結果を紹介。その内容が、企業内や企業間、各種のセンサーやデバイス、各種メディアから、さまざまなタイプのデータになって大量生成されるようになるとの認識を示した。

 そのうえで、山元常務はこう語った。

 「現時点でも生成されたデータの99%以上が有効活用されていないとの調査結果もある中で、今後、大量生成されるさまざまなタイプのデータをどのように収集・加工・分析し、新たな価値創造につなげていくか。ビッグデータを生かすポイントはまさにそこにある」

 そして、こう強調した。

 「ITベンダー側にとっても、ビッグデータの活用はこれまで本格的に踏み込んでこなかった未開の領域だが、ここにきて対応できるソリューションが揃ってきた。NECもビッグデータ活用のすべてのプロセスでニーズに応えていくべく一層事業強化を図っていく」

 とはいえ山元常務によると、NECのビッグデータ関連事業は「情報爆発という言葉が使われていた6年ほど前から取り組んできた」という。その実績として、企業内の処理データの急増という領域については、キャリアの大容量イベント処理、金融分野の不正取引検出やリアルタイム配信、流通サービス分野の顧客解析を挙げた。

 また、センサー情報収集の領域では、農業分野の農地センサー、交通分野のカーセンサー、さまざまなタイプのデータ処理の領域では、セーフティ分野の顔認識や行動解析、流通サービス分野の顧客行動解析などを挙げた。

ビッグデータブームに浮き足立つことなかれ

 ちなみに米国ではかねてから、Google、Facebook、Amazon.comといったネット系企業がビッグデータを活用している。中でもクラウド基盤上にある大量のWebログを分析することで、例えば、ある商品を買った顧客に別の商品を薦めるようなリコメンデーションサービスを展開しているAmazonの仕掛けには当初、驚いた人も少なくないだろう。

 こうしたサービスは、個人の履歴データだけではなく、これまでのすべての顧客に関する大量のデータを蓄積・分析し、その傾向をとらえて、その人に適した情報を届ける仕組みを構築することで実現している。こうしてみると、ビッグデータの活用は、大量のデータを取り込むクラウド化の流れの中で生まれてきた新たなビジネス機会といえる。

 ここにきて注目度が高まるばかりのビッグデータ分野だが、一方でこんな見方もある。

 ある有識者は、「企業が日常的に扱うデータ量からみて、ビッグデータの活用を急がなければいけないのは、当面ネットビジネスを展開しているところに限られるのではないか。逆に言えば、そうしたネット企業にとっては、ビッグデータを活用してどうパフォーマンスを上げていくかが、企業競争力に直結するだろう」と語る。

 では、ネット企業でないところは、ビッグデータを活用する必要性はないのか。その有識者は、「自社が日常的に扱うデータ量とその中身の価値をとらえて冷静に判断すべき。多くの企業にとっては、このところのビッグデータブームに浮き足立つことなく、きちんと投資効果を見極めることが肝要だ」と、ヒートアップした動きにクギを刺した。

 ただし、こうも付け加えた。

 「ビッグデータに限定せず、企業が蓄積しているデータを活用することは、これまでにも増して重要な取り組みになってくるのは間違いない。将来的には、例えばビッグデータを活用するうえで開発された非構造化データの分析手法が、一般の企業で行うデータ活用にも生かされるようになるかもしれない。そう考えると、ビッグデータの活用は応用範囲が広がる非常に重要な取り組みといえる」

 ビッグデータに関しては、「IT業界のマーケティング用語にしかすぎないのではないか」とのユーザー企業の懸念の声も耳にするが、先の有識者の見解が筆者にはストンと腹に落ちた。今後、多くの企業がネットを利用したビジネスに進出するとみられるだけに、ビッグデータがどのように活用され、山元常務の言うように新たな価値創造につながるか、注目したい。

 蛇足ながら、今回で本コラム「Weekly Memo」は200回目を迎えた。あらためて読者の皆さんに感謝を申し上げるとともに、引き続きお目通しいただければ幸いである。

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