被災地に雇用を! ICT教育は東北復興を後押しできるか(1/2 ページ)

岩手、宮城、福島3県の被災者を対象にICTスキルの習得を通して就労機会の拡大を支援する「東北UPプロジェクト」が本格的にスタートした。その現状などをリポートする。

» 2012年02月24日 13時00分 公開
[伏見学,ITmedia]

 「震災復興」──。日本中がこの言葉であふれるようになってから1年が経とうとしている。この間、東日本大震災で特に打撃を受けた岩手、宮城、福島の東北3県では復興に向けたさまざまな取り組みがなされてきたが、まだまだ抜本的な問題解決や状況改善には至っていないのが現状である。

 山積する問題の中で、とりわけ被災者を悩ませている事の1つが「雇用」だ。地震や津波で被災した沿岸部地域では漁業や水産加工業に従事する人々が多かったため、震災によって大多数が失業した。そのほか、倒産や廃業に追い込まれる地域の中小企業も相次いだ。厚生労働省が発表した雇用状況データによると、震災発生から今年1月22日までに岩手、宮城、福島における雇用保険離職票等交付件数は計21万9163件に上り、前年比1.5倍という厳しい数字が出ている。

 そうした中、民間企業を中心として被災者の雇用支援に取り組む動きが出てきた。日本マイクロソフトもその1社である。同社は、NPO法人「育て上げ」ネットと協業して、東北3県の被災者を対象にICTスキルの習得を通して就労機会の拡大を支援する「東北UPプロジェクト」を今年1月からスタートした。

 具体的には、Windows7やOffice2010、Office 365といったソフトウェア製品の提供、ICTスキル講習のカリキュラムおよびテキストの開発、被災者に対して実際に講習を行う各地域のNPO団体へのIT講師養成研修の実施、プロジェクトのポータルサイトを通したトレーニングマテリアルの提供、政府や自治体、民間のさまざまな雇用施策との連携などに取り組む。同プロジェクトによって、2013年3月末までにのべ500人の被災者に向けてICTスキル講習を施すとともに、そのうち3割の就労(就労条件の改善や職業訓練校への進学を含む)を目指している。

ICTスキルと就業機会の関係

 ところで、ICTスキルの習得は被災地での就業に有利なのだろうか。被災地で復興支援にあたる関係者によると、現地のハローワークに集まる求人情報にはWordやExcelの利用経験が必須とあったり、業種を問わずオフィスの事務職であれば最低限のPCスキルが求められたりすることは少なくないという。ICTスキルを身に付けることが即就職につながるというわけではないが、就業機会の拡大には大いに役立つというわけだ。

 それを裏付ける取り組みとして、2010年1月から日本マイクロソフトと「育て上げ」ネットが無業の若者の就労支援をしている「若者UPプロジェクト」が挙げられる。同プロジェクトにおいて約2年間、若者に対し独自のICTスキル講習などを実施した結果、45.5%の就労率を達成し、プロジェクトの受講者の8割が「気持ちが前向きになる」など肯定的な意欲の変化を口にしたという。

 プロジェクトにかかわった日本マイクロソフトの担当者は「講習では、ICTスキルにとどまらず、コミュニケーションスキルの習得や、モチベーション向上のための施策なども行っており、そうした内容が受講者の意識変革をもたらしたのだ」とメリットを説明した。

 加えて、日本マイクロソフトでは10年以上前から社会貢献活動の一環としてソフトウェアやITを活用した就業支援を行っており、長年の活動を通して蓄積された知見やノウハウも、今回のプロジェクトに生かせるはずだとしている。

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