“ゼロ円ビジネス”への挑戦 メインソリューション田中克己の「ニッポンのIT企業」(1/2 ページ)

世の中の役に立たねば、その会社は不要になる――。強烈な危機意識を持って設立された大阪のIT会社が目指すものとは……。

» 2012年04月27日 09時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 「フリーミアム」。この言葉が登場してから6年が経った。フリーミアムとは、「フリー(無料)」と「プレミアム(割増料金)」を足し合わせた造語で、顧客に基本となるサービスや商品を無償提供し、それを引き金に課金する高度な機能を使用させるビジネスモデルだ。基幹業務ソフトに、この仕組みを適用するIT企業が現れた。

売ったら終わり、では通用しない

 大阪市に本社をかまえるメインソリューションは、2009年から中小企業に財務会計や給与計算、販売管理、グループウェアのソフトを無償で提供している。同社WebサイトからのダウンロードとCD-Rによる配布を合わせて、利用者は2012年3月時点で2000人ほどになったという。田村勇二代表取締役は“ゼロ円ビジネス”と呼び、4つの機能をベースに展開する新しいビジネスモデルを築こうとしている。

 背景には、ITビジネスの変革がある。古典的なシステム販売が次第に通用しなくなり、販売会社はじり貧傾向にある。最大の問題は、中小企業がIT活用によって売り上げや利益を伸ばすといった効果を得られなくなっている点にある。その結果、IT投資が削減されてしまう。

 販売する側がハードやソフトなどを「売ったら、終わり」という考え方にも問題がある。田村氏はそうした経験から、「世の中に役立たなければ、その会社の必要性はなくなる」と痛感した。同時に、事業構造をフロー型からストック型に切り替え、安定して収益を確保できる経営を目指した。

 1956年生まれの田村氏は、1984年にOA機器販売会社「メディアビジネス・ネットワーク」を立ち上げた。1日に約200件の飛び込みセールスを敢行するなどし、営業ノウハウと販売代理店の運営ノウハウを蓄積する。中小企業の経営者との関係も深めた。業績は順調に推移し、売上高13億円超、社員100人超の規模に達した時期があったという。上場も視野に入った。

 ところが、「上場に向けた管理体制の強化に不安を持った営業部門と技術部門のコアの人材が離職、独立した」(田村氏)。顧客は減少し、資金繰りも悪化する事態になったという。田村氏は事業を整理し、2006年に営業部門を分割する形でメインソリューションを新設。前進会社の顧客へのサポートやシステムのリプレイスなどを行いながら、「中小企業を知っているIT企業こそが市場でリーダーシップを握れる」(田村氏)とチャンスをうかがっていた。

 社運を賭けたのが“ゼロ円ビジネス”だ。そのために新会社を設立して、前進会社が開発した会計や販売、給与ソフトのノウハウを生かす形態にした。所帯を約12人という小規模にもした。過去のユーザー資産があれば、それに縛られてしまうからだ。もちろん、無償にするからといって、機能が貧弱だったら、誰も使わなくなる。「安物買いの銭失い」とユーザーから思われたらおしまいだ。

 だからこそ、中小企業の経営に必要なモノ(販売管理)、カネ(財務会計)、人(給与計算)、情報(グループウェア)の4つの機能を揃え、「数百万円する有力財務会計ソフトベンダーと同じような品質レベルにした」(同)。バージョンアップも無料である。

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