老舗が反撃に出た激戦区・データ分析市場の行方Weekly Memo

SAS Institute Japanが先週、新たなデータ分析エンジンを採用したBIソフトを発表したことで、ビッグデータの活用に向けたデータ分析市場はますます激戦区となりそうだ。

» 2012年05月28日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

ビッグデータ活用に求められる3つの能力

 SAS Institute Japanが5月22日、新たなデータ分析エンジンを採用したビジネスインテリジェンス(BI)ソフトウェア「SAS Visual Analytics」を発表した。高度なビジュアルインタフェースを備え、ビッグデータを超高速に探索・分析・可視化できるのが特徴という。

 記者会見に臨むSAS Institute Japanの吉田仁志社長 記者会見に臨むSAS Institute Japanの吉田仁志社長

 新製品は、低コストの業界標準ブレードサーバを複数台使用し、ビッグデータの可視化によってビジネスの洞察を得ることができるように設計された、業界初のスケールアウト型インメモリアーキテクチャを採用。これにより、これまで数時間から数日かかっていた分析やハードウェア性能の制約でできなかった分析をわずか数分、数秒以内で実行できるようになったとしている。

 こうしたパフォーマンスの向上を支えているのが、新製品の中核コンポーネントであるインメモリ分析エンジン「SAS LASR Analytic Server」。同エンジンはデータ分析のために最適化されており、データをメモリに迅速に読み込ませて、スケールアウト型かつメモリ上で分散並列・超高速に処理することができるという。

 新製品のさらに詳しい内容については、すでに報道されているので関連記事等を参照いただくとして、ここでは同日行われた同社の記者会見で、吉田仁志社長がビッグデータの活用について語っていたので紹介しておきたい。

 まず、ビッグデータの活用が企業にとってどのような意味を持つのか。この点について吉田氏は、「今データが持っている事実、データが知っていることを、いかに企業が知る力に変えていくかが最も重要なポイントだ」と指摘。そのために必要となる能力についてこう説明した。

 「データが知っていることを企業が知るとはすなわち、データを情報に変えること。まずはその能力が求められる。その際、データは大量かつ高速に流れることから、リアルタイムでつなげる能力も不可欠だ。そして、それらによってどのようなイノベーションを起こすか、という能力が必要となる」

 わかりやすい三段論法である。さらに吉田氏は、SASが先頃、世界各国で586人のシニアエグゼクティブを対象に、ビッグデータの活用分野について聞いたという調査結果を披露した。

 それによると、「ソーシャルインフルエンサーマーケティングにおける最適なターゲティング」が回答率61%で、群を抜いていることが明らかになった。

 それもさることながら、この結果で興味深いのは活用分野の項目だ。「セールス/マーケティング機会の認知」「“移り気”な顧客の属性」「リスクの監査」「ビジネス環境の変化の理解」「コストの根本原因の発見」など、むしろこうした活用分野が考えられるのか、と注目した。貴重なグラフなので、会見のときに撮った写真を掲載しておく。

 ビッグデータの活用分野(SAS Institute Japanの記者会見より) ビッグデータの活用分野(SAS Institute Japanの記者会見より)

ビッグベンダーひしめくビッグデータ活用の主戦場

 さてこのデータ分析市場、IT業界では10年ほど前からBI市場、そして数年前からはBIをビジネスに生かすという意味合いを一段と込めたビジネスアナリティクス(BA)市場とも言われているが、ここにきてビッグデータ活用の主戦場として俄然注目を集めている。

 データ分析市場の歴史からみると、SASはまさしく老舗で、今も独立系専業ベンダーとして市場をリードしている希有な存在である。だが、ここ数年でこの市場には、IBM、Oracle、SAP、Microsoftといったビッグベンダーがこぞって本格参戦してきた。かつてはSASと同様、有力なBI専業ベンダーが群雄割拠していた時期もあったが、相次いでビッグベンダーに買収された経緯がある。

 ビッグデータの活用に向けて、製品の形態も大きく変わってきている。さまざまな統計解析手法や分析アルゴリズムを主体としたソフトウェアが中心であることは変わらないが、それとハードウェアを一体化した統合システムや、今回SASも採用したインメモリ技術が、製品における競争力のポイントになってきている。

 そうした市場の変遷からみると、今回のSASの新製品投入は、老舗の独立系専業ベンダーが最新技術を取り込んで、ビッグベンダーのひしめく激戦市場へ反撃に打って出た形だ。

 さらにSASは新製品発表と同日、NECとビッグデータ関連事業で協業すると発表した。ITリセラー契約を結び、NECがSASのBA製品を販売していくという。この協業はSASにとって、とくに日本市場でのビジネス展開に強力な援軍を得た格好となる。

 ただし、ビッグデータ関連市場は、とりわけ日本ではまだ黎明期の段階で、明確な投資効果が示された事例はまだまだ少ない。気になるのは、BI市場が日本で長らく膨らまなかったことだ。その主因は、BIの必要性は認識されつつもコスト面で割高感が強かったことにある。それこそクラウドサービスにして、割安で幅広く活用できる手立ては考えられないものか。BAベンダーの知恵比べに期待したい。

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