社名も変え、チャットツール一本に絞ったEC studioの狙い田中克己の「ニッポンのIT企業」(1/2 ページ)

顧客と会わず、電話対応もしない。低価格でサービスを提供するためにユニークな方法でビジネスを展開する企業に迫った。

» 2012年06月05日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 中小企業にIT活用術をコンサルティングするEC studioが2012年3月に米国のシリコンバレーに現地法人ChatWorkを設立し、クラウド提供型のコミュニケーションツール「ChatWork」の販売活動に乗り出した。2011年3月に発売したChatWorkの利用者は約7万人(5月時点)に達するが、山本敏行代表取締役は海外市場の開拓で、「ユーザー数を1年以内に国内で50万人、海外で50万人の合計100万人にする」と意欲的な計画を立てる。社名も6月中旬にChatWorkに変更する予定だ。

顧客に会わない、電話対応しない

 2000年に創業したEC studioは、中小企業に対してインターネットを活用した「売り上げアップ」や「業務効率化」、「社員満足度の向上」に関するコンサルティングと関連ソフトの販売を展開している。分かりやすく言えば、中小企業に効果的なIT活用法を伝授し、それに必要なソフトを販売すること。しかも、月額数千円という低価格を実現するために、「顧客からの電話を受けない」「顧客と会わない」という手法を編み出した。「多くの顧客から薄い利益を得て成り立つビジネスモデル」(山本氏)だ。

 具体的には、チャットやメールなどを利用して、ユーザーへのコンサルティングや問い合わせ応対を行う。さまざまなIT活用のノウハウやIT導入の方法はマニュアル化し、ユーザーはインターネットを介して参照し、自ら実践できる仕組みにした。このように徹底した効率化を図り、約5万人のユーザーをわずか10人でサポートする体制を確立した。現在は社員も約30人になった。

 だが、同社の業績はここ2年間、横ばい状態にある。ユーザー数は増えないし、実際に売れる商品は扱う全商品の1割から2割に片寄ってきた。それ以上に問題なのは、IT活用に積極的な中小企業がいる一方で、「分からないので、オフィスに来てほしい」という中小企業が増えてきたこと。「訪問をしない」「電話による問い合わせを受けない」という同社のビジネスモデルを根底から崩壊させることになりかねない。

 しかも、IT活用に熱心に取り組む中小企業の中には、ほんの一握りだが、「新しいものはないのか」と問い合わせをしてくる。要求に応えられないと、経営者らの不満が高まる。半面、「中小企業の多くが、IT活用への関心がなくなりつつある。インターネット活用の提案だけでは難しい」(山本氏)状況になってきているのも事実である。

 そこで、強みを生かしたビジネスを展開し続けるために、「これまでの事業を譲渡し、ChatWork一本に絞り込むことにした」(山本氏)。顧客対応などIT活用のノウハウを集積したChatWorkは、グループチャットによる簡易会議やグループチャットで発生した作業のタスク管理、ファイル管理などの機能を備えたコミュニケーションツールである。PCやスマートデバイスなどから使えるため、どの企業にも入っているメールソフトの課題を解決する有効なツールだという。

 例えば、「大量の迷惑メールで重要なメールを見逃してしまう」、「送受信できる添付ファイルの容量が小さい」、「その都度、CCやBCCで受信者に指定する」、「過去のやり取りをさか上るのが大変」などといったメールの問題点をChatWorkは解消し、社内コミュニケーションを大きく改善するという。多くの社員を集めて開く会議を減らし、担当者に作業を割り振る管理が容易にもなる。

 既に成功事例は出てきている。ある税理士事務所は、1人の税理士が20社から30社の顧客企業を支援していた。月1回のコンサルティング活動などをChatWorkに切り替えたことで、支援する顧客を約50社に増やせたという。ベトナムにオフショア開発拠点を設けたソフト開発会社の経営者は、現地の技術者約140人のマネジメントに活用する。メールから切り替えたことで、経営者は時間を気にせずに、いつでも日本の出先からスマートフォンで指示を出せる。ある飲食店は、新しい商品開発のアイデア募集に活用する。社員やアルバイトから提案のあったアイデアを共有したり、意見を述べたりすることに使っている。

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