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» 2012年06月22日 08時00分 UPDATE

えっホント!? コンプライアンスの勘所を知る:最終回・コンプライアンスの精神とはなにか (1/2)

本連載で取り上げてきたコンプライアンスの総括として、企業に関わる全ての方々にぜひ知っていただきたい「コンプライアンスの精神」を解説しよう。

[萩原栄幸,ITmedia]

「コンプライアンス=法令順守」ではない

 このシリーズで一貫して提起し続けたことがある。それは世間でよく言われている「コンプライアンス=法令順守」という誤解だ。

 たぶん、企業のコンプライアンス推進室やコンプライアンス統括部などの管理者であれば、筆者のこの意見に賛成していただけるだろう。筆者は「情報セキュリティ」を専門に30年近く仕事をし、その周辺業務の一つとして「コンプライアンス」にも長らく携わってきたが、「コンプライアンス=法令順守」とは明らかに誤りである。

 だが全く別物というわけでもない。正確には「コンプライアンス>法令順守」だ。コンプライアンスに法令順守が含まれる。しかもコンプライアンス全体に占めるのはごく小さい部分でしかない。法令順守はコンプライアンスの基本的な考えに当たり、重要なものであることは間違いない。ただ、その領域は極めて小さく、単純に「=法令順守」といえるほど楽なものではない。

コンプライアンスに対する日本語は?

 コンプライアンスの対訳が何かを解説する前に、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」、いわゆる不正アクセス禁止法を議論していた当時のエピソードを紹介したい。15年ほど前に筆者の先生がその法案作成に関与していたが、ある時、こうぼやいたのである。

 「役人が“アクセス”というのは外来語であり、法律用語に相応しいとは思えないのでなるべく“日本語”にできないかというのだよ。どう思うかね」

 さまざまな議論が展開されたが、アクセスという言葉を簡単に表現できる日本語が存在しなかったのである。詳細は割愛するが、結論は「アクセス」自体が日本語として浸透してしまい、これと同じ意味でカタカナでない言葉にする必要性がなくなってしまった。つまり、立派な「日本語」になってしまったのである。「不正アクセス禁止法」を「不正○○禁止法」と読み替えて違和感のない、カタカナではない日本語を探してみれば納得できるだろう。

 筆者なりに感じるのは、「コンプライアンス」も既にそのような状況になりつつある言葉ではないかということだ。コンプライアンスの対訳はない。これ自体が既に「日本語」に昇格(正確にはもう少しで昇格する見込み)しているのである。

コンプライアンスの考え方

 筆者の目の前に「コンプライアンス」との表記のある出版物が20冊程度ある。これらは本当に「知識」としては役に立った。企業の現場で途方に暮れて、「本」を頼りにコンサルティングしたこともあった。

 現代の企業の経営環境は、「内部統制」「内部通報制度」「コンプライアンス経営」「J-SOX法」など昔にはなかった概念や法律ができて複雑になっている。一度でも企業が“故意に”違反すると、それだけで企業自体を滅亡させるに等しい強力なしっぺ返しが待っているといっても差し支えがない。

 だからこそ、企業はコンプライアンスに注目している。この考えは、半分は正しいが、半分は大きな誤りでもある。なぜなら、「罰が大きい」からコンプライアンスを重視すると考えてしまう場合が出てくるからだ(つまりその逆は罪が軽ければコンプライアンスは無視しても良いとなる)。本当はそうではなく、企業が永続して発展するためにコンプライアンスを武器として活用してほしいのだ。

 コンプライアンスの基礎は、日本における最高のルール「憲法」である。そして「法律」がある。さらにこれらの基盤に沿う形で「条例」や個別の監督官庁からの「指針」「通達」がある。これらの関係に矛盾はない。まず「条例」はその上位の「法律」に準拠している。そして、法律はさらに上位の「憲法」の条文に従っている。こういうピラミッドが形成されているわけだ。ただ全てが網羅されているわけではないので、「法律の盲点」とか「抜け穴」が存在する。どんなに一流の先生が考えても、所詮は人間が作るものなので仕方ない。また、法律はある意味で最大公約数的なものにあたり、個別具体的にはもっと厳しい考えや具体的数値を作成する必要も出てくる。業界団体が監督官庁と協力して作成するものなどがそれに該当する。

 こうした「精神」を踏まえて、企業としての「理念」「社是」「経営ポリシー」などが別に存在している。当然ながら、精神を踏まない、法律に抵触する「理念」などあり得ないことになる(現実には時々見かけるが)。

 筆者は、企業としての「理念」などには3つの基本があると考えている。一つは法律や指針では拾えない隙間を埋める企業としての行動指針であり、二つ目は「道徳」とか「品性」といわれる領域での企業として目指すべき考えである。最後の三つ目は、創業者や経営者が役員や従業員に対して示すもの、「当社が何を最優先にすべきか」「目指す先はどこか」といったことを、時代の変化に直面してもずれることなく常に定まって、企業という船を舵取りしていく。その基本精神だと思う。

 ただ一部の企業からは、「とにかく行動規範の“コンプライアンスマニュアル”さえ作ればいい」といわれることもある。それでは「仏作って魂入れず」になってしまうので、その危険性を説明してなるべく同意してもらう。セミナーでは「お茶やお花と同じ。まずは形から入り、各自の心という名の“胃”で消化することでその精神、心が理解できる」と話している。

 それでも中には、「当社はその形を求めている。だからこの半年でその成果物を作成してほしい」と言われることがある。そういう企業は、緊急性が出てきた(監督官庁からの指示など)のだと理解して、経営者や役員、従業員の一部にヒアリングをして、コンプライアンス部のバックアップを受けながらコンプライアンスマニュアルを作成することがある。

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