スマートフォンやタブレットを求める社員にどう応えるかジレンマに悩む企業に(1/2 ページ)

急速に普及が進むスマートフォンやタブレット端末。仕事を効率化できるツールとして期待する社員に対し、企業はこの新しい端末の利便性や管理性に疑問を抱えている現状が浮き彫りになった。

» 2012年06月25日 10時00分 公開
[ITmedia]

ユーザー主導で立ち上げるスマートフォンとタブレット

 ITmedia エンタープライズは、2011年秋にモバイル端末に関する読者調査を実施した。

 それによると、スマートフォンを業務に利用しているというユーザーは約5割、タブレット端末では約3割に達した。ノートPCの9割弱、携帯電話の6割弱という数字に比べれば、スマートフォンやタブレット端末の割合は低いが、本格的な普及段階に入って間もないことを考えると、この数字は驚くべき結果だ(グラフ1)。ビジネスユーザーの多くが、スマートフォンやタブレット端末の利便性を高く評価し、業務に役立てたいと考えている表れと言えるだろう。

グラフ1 グラフ1:モバイル端末の業務利用状況(出典:ITmedia エンタープライズ リサーチインタラクティブ)

 ところが、スマートフォンやタブレット端末が業務に利用できる機器として、企業に認知されているとは言い難い状況であるようだ。調査結果をより詳しく見ていくと大きな違いに気付く。

 ノートPCや携帯電話は、企業の標準端末、あるいは個別申請によって企業が用意し、従業員へ貸与しているケースが多数を占めていた。一方、特にスマートフォンで最も多かった回答が、非公式に個人所有の端末を業務利用しているというものだった。つまり、従業員がスマートフォンを使えば仕事が便利になると個人的に判断して、業務の現場に持ち込んでいるというわけだ。これは企業にとって決して歓迎できることではない。

 スマートフォンはどのように使われているのだろうか。まず思い浮かぶのが、通話やメール、カレンダーの利用だ。

 実は、こうした用途は10年以上も前に実現していた。例えば10年前にPHS事業者が提供していたモバイル端末には、通話機能もPDA機能も備わっていた。しかし端末が大きくて重い上に、通信速度も十分ではなかった。結果的に一般には普及せず、当時のビジネスマンは携帯電話と電子手帳を持ち歩き、使い分けることが多かった。

 その後に端末と通信回線の技術革新が進んで、薄く軽い上に高速通信ができるスマートフォンが世に出回るようになった。携帯電話と電子手帳という組み合わせはあっという間に駆逐されたが、それでも実際の使われ方は過去とは大差がない。かつての通信機能付きのPDA端末がスマートフォンに姿を変えて、世の中に受け入れられ始めたというのが今の状況である。

価値を見出せない企業

 タブレット端末はノートPCの代替として利用されるケースが目立つ。ノートPCに比べて持ち運びがしやすく、バッテリ駆動時間が長いという特徴がある。タッチパネルで直感的に操作できる使いやすさも、PCに不慣れなユーザーにとってはメリットに感じる点だろう。そんなタブレット端末も、用途については気になる点がある。

 調査結果によれば、最も多い使われ方は「社外プレゼンテーション端末」であり、「社内情報の閲覧端末」という回答も多い(グラフ2)。これらはノートPCの代替としての使い方だ。ハンディターミナルやデジタルサイネージのような用途であれば、ノートPCよりもタブレット端末の方がはるかに使い勝手がよいだけにその価値を存分に引き出せるだろうが、現実には違う。極端だが、ノートPCできることをわざわざタブレット端末でしていることになる。

グラフ2 グラフ2:タブレット端末の用途(出典:ITmedia エンタープライズ リサーチインタラクティブ)

 つまり、スマートフォンやタブレット端末を業務に利用していても、実は使いこなされているわけではないのが現状だ。ユーザーのニーズは高いが、企業はどうも乗り気ではない。それは調査結果にも表れており、企業がスマートフォンやタブレット端末を導入しない理由の多くが、「明確な理由はないけれども導入しない」「具体的な利用用途が分からない」となっている。新たなコスト負担を懸念する意見も少なくない。

 それに加えて、スマートフォンではセキュリティの不安を挙げる回答が最も多い(グラフ3)。スマートフォンの使い方自体はかつてPDA端末と大差がないにもかかわらず、機能の種類や処理性能はPDA端末よりもはるかに上であり、アプリケーションも豊富だ。あまりにも早く普及したためにマルウェアも既に出現している。セキュリティ対策が進んでいるPCよりもスマーフォンは脆弱性や危険性が高いのだ。こうした現状も、企業がスマートフォン導入をためらう要因になっている。

グラフ3 グラフ3:スマートフォンを導入しない理由(出典:ITmedia エンタープライズ リサーチインタラクティブ)

モバイル端末の企業利用をどう実現するか

 企業がためらっていても、社員であるユーザーの声にはパワーがある。TwitterやFacebookのようなソーシャルメディアも、登場した当初は「業務に無関係」と排除する企業が多かった。今では新しいビジネスチャンスを探したり、創生したりする情報源として認知する企業の方が多い。それと同じように、もはやスマートフォンやタブレット端末の普及を止めることは不可能である。携帯電話会社の新製品をみても、携帯電話からスマートフォンへのシフトが明確だし、インテルのUltrabook™やWindows搭載のスレートPCの登場をみるに、伝統的なPCとタブレット端末との垣根が取り払われていくのは間違いない。それならば企業としては、スマートフォンやタブレット端末を情報システムに積極的に取り込んでいく方が得策だろう。

 スマートフォンやタブレット端末を企業レベルで管理していくための方法として注目を集めるのが、「MDM(Mobile Device Management=モバイル端末管理)」である。企業のIT部門は、PCと同様にこれらのデバイスをクライアント管理の一環として取り込むことになるが、専用の管理システムではその導入に相当な苦労を伴う。そこで従来のシステム運用管理の仕組みにMDMの機能を組み込むというアプローチが活発化している。

 例えば、日立製作所の統合運用管理ソフトウェア「JP1」ではデスクトップ管理機能の「JP1/IT Desktop Management(JP1/ITDM)」にMDM製品との連携機能を追加することで、スマートフォンやタブレット端末の管理を一緒にできるようにしている。IT部門にしてみれば、使い慣れた運用管理ソフトウェアでモバイルデバイスも管理できれば非常に便利だ。新たな業務負荷が生じるわけでもない。今後は日立のJP1のように、MDMに対応する運用管理ソフトウェアが広がっていくとみられる。企業が積極的にモバイルデバイスを導入していける最善のソリューションになるだろう。


 「営業がスマートフォンを持ち歩いている。わたしたち情報システム部が知らないうちに広まっているんだ」……次項ではMDMでモバイルの積極的な導入に取り組む企業のエピソードを紹介しよう。

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