マイクロソフトが推進するエンタープライズソーシャルのインパクトWeekly Memo

日本マイクロソフトが先週、エンタープライズソーシャル戦略について記者説明会を開いた。同戦略から読み取れる今後のITトレンドへのインパクトについて考えてみたい。

» 2012年12月10日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

マイクロソフトのエンタープライズソーシャル戦略

 日本マイクロソフトが12月5日、エンタープライズソーシャル戦略について記者説明会を開いた。企業が自らSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)機能を取り込んで活用していくというニーズが高まる中、そうした需要を「エンタープライズソーシャル」と呼ぶマイクロソフトが、この分野の事業戦略について日本で会見を開くのはこれが初めてだ。

会見に臨む日本マイクロソフトのマイケル・ビール執行役マーケティング&オペレーションズ ゼネラルマネジャー 会見に臨む日本マイクロソフトのマイケル・ビール執行役マーケティング&オペレーションズ ゼネラルマネジャー

 会見の詳細な内容については、すでに報道されているので関連記事等をご覧いただくとして、ここではそのエッセンスとともに、同戦略から読み取れる今後のITトレンドへのインパクトについて考えてみたい。

 会見ではまず、同社のマイケル・ビール執行役マーケティング&オペレーションズ ゼネラルマネジャーが、マイクロソフトのエンタープライズソーシャルは「次期Office」の企業内活用シナリオの1つとして位置付けていることを明確にし、「企業組織として、人やチーム、そしてグローバルな社会とも効果的につながることを可能にする重要な機能である」と説明した。

 続いて説明に立った同社のロアン・カン業務執行役員Officeビジネス本部 本部長は、新旧メディアが5000万ユーザーに達するまでの年数として、ラジオが38年、テレビが13年、インターネットが4年かかったのに対し、Facebookはわずか9カ月で1億ユーザーに到達したことを挙げ、「ソーシャルテクノロジーは爆発的な成長を遂げており、多くの企業がこれを有効利用しようと取り組み始めている」との現状認識を示した。

 そのうえでカン氏は、「近い将来、すべての企業がソーシャルビジネスを手がけるようになり、すべてのアプリケーションがソーシャル化していくだろう。そうしたソーシャル化に向けては特別なアプリケーションを使うのではなく、すでに日常使っているオフィスツールと組み合わせて利用するのが便利で効果的だ。次期Officeはそうした方向をめざしている」とし、マイクロソフトならではの戦略のポイントがここにあることを強調した。

 カン氏によると、エンタープライズソーシャルを実現するフレームワークとしては、アプリケーションとしてコラボレーションツール「SharePoint」、マイクロソフトが今年夏に買収した企業内SNS「Yammer」、クラウド型オフィスツール「Office 365」、メッセージングツール「Exchange」、ユニファイドコミュニケーション(UC)ツール「Lync」、インターネット電話サービス「Skype」、クラウド型CRMなどがある。これらをセキュアで管理性に優れたソーシャル基盤上で組み合わせて利用できるようにするというのが全体像である。

マイクロソフトの戦略から読み取れること

 さらにカン氏は、そうしたフレームワークの中でも、とくに次期Officeにおいてエンタープライズソーシャルを実現する要となるSharePointとYammerの今後の方向性についても言及した。

 「SharePointとYammerはそれぞれを補完し、力強い組み合わせになる。現時点では基本機能の連携にとどまっているが、今後はシングルサインオンによるID管理の実現、ドキュメント管理やフィードの統合を進め、将来的にはクラウドサービスのメリットを生かしながら融合を図っていく」

 このロードマップについては、来年になれば詳しく説明するとしているが、近い将来、Officeがソーシャル化することを明らかにした点で大いに注目される。

 今回のマイクロソフトの戦略から読み取れることとしては、次の2点が考えられる。

 まず1つは、グループウェアやUCといったコラボレーション系ツールと企業内SNSの融合が進むということだ。状況によっては、最近話題になっているタレントマネジメントなども深く連携することになるかもしれない。

 とくにグループウェアと企業内SNSの関係については、本コラムでも『グループウェアvs.企業内SNSの行方』(2012年3月26日掲載)と題して取り上げたことがあるので参照いただきたい。グループウェアの代表格であるサイボウズの青野慶久社長が次のように語っていたのを思い出す。

 「SNSの良いところはどんどん取り入れていきたい。すでにかなりの要素を盛り込んでいる。私たちが今、企業内SNSの動きで最も興味深く見ているのは、ビジネスアプリケーションとどのように連携・融合していくか。その意味では、企業内SNSもさらに普及していってほしい。そうすれば、ビジネスアプリケーションとソーシャルな機能の境界線上にどんな新しいビジネスチャンスがあるか、見えてくるはずだ」

 青野氏のこの視点は、それこそ非常に興味深い。確かに「境界線上」には何かがあるような気がする。今回のマイクロソフトの動きで「融合」が現実味を帯びてきただけに、一層注視しておきたいところだ。

 もう1つは、エンタープライズソーシャルが企業のコミュニケーション基盤になる可能性が高いということだ。これについては「近い将来、すべての企業がソーシャルビジネスを手掛けるようになり、すべてのアプリケーションがソーシャル化していく」とのカン氏の言葉を受けた格好だが、それだけではない。

 IBMやオラクル、セールスフォース・ドットコムといったエンタープライズ分野に強いベンダーも同じ発想でソーシャルビジネスに注力しているからだ。その意味では、大きな流れはできつつあるような気がする。

 だが、マイクロソフトが言い始めた「エンタープライズソーシャル」という言葉を各社が共通して使うかどうかは分からない。そんなネーミングの主導権争いもこれから起こりそうな気配がする。それだけホットな市場といえるが、あらためて今回のマイクロソフトの戦略は、予想されていたとはいえ、今後のITトレンドに大きなインパクトを及ぼすことは間違いなさそうだ。

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