異業種提携にみるクラウドビジネスの行方Weekly Memo

大日本印刷と日本ユニシスが先週、共同で業務提携に関する会見を開いた。クラウドビジネスの観点からみても、この提携は非常に興味深い動きといえそうだ。

» 2013年01月21日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

大日本印刷と日本ユニシスが提携内容を発表

 「異業種提携でお互いの強みを生かし、新しい事業やサービスを創出していきたい」

 大日本印刷の高波光一副社長は1月16日、昨年8月に資本・業務提携した日本ユニシスとの共同記者会見でこう力を込めた。提携後、両社が揃って具体的な業務連携の内容を説明するのはこれが初めてとなる。

 両社の説明によると、業務連携としては、両社顧客への提案力強化を目的とした「マーケティング・販売連携」、両社の事業を推進するうえでのベースとなる「サービス事業基盤の強化」、企業とその先の顧客への対応力やスピード力を強化する「マーケティングプラットフォームの共同開発・展開」、両社の成長戦略における重点テーマである「グローバル展開」を順次進めることにより、2016年度に両社で500億円の売り上げを目指すとしている。

共同記者会見に臨む両社首脳。左から、大日本印刷の北島元治常務取締役、高波光一代表取締役副社長、日本ユニシスの黒川茂代表取締役社長、角泰志代表取締役専務執行役員 共同記者会見に臨む両社首脳。左から、大日本印刷の北島元治常務取締役、高波光一代表取締役副社長、日本ユニシスの黒川茂代表取締役社長、角泰志代表取締役専務執行役員

 ちなみに、マーケティング・販売連携では昨年10月から連携提案を実施しており、電子出版や電子図書館、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスなどの関連分野において200件以上の案件が進んでいるという。また、サービス事業基盤の強化については、両社のデータセンターとクラウドを基盤とした国内最大規模の高品質なサービス網を構築し、現状の両社の顧客に限らず、クラウド技術を活用した最適なサービスを幅広く提供する体制を整備していく構えだ。

 データセンターについては、大日本印刷が千葉県に延べ床面積1万平方メートル、約850ラックを収容可能なデータセンターを建設しており、今年11月のサービス開始を予定している。ここへ日本ユニシスのエンタープライズクラウド基盤を導入し、各種クラウドサービスを提供するとともに、アジアを中心とした事業展開に対応した高信頼型のデータハブを形成するとしている。

 また、両社では、大日本印刷が新設する施設を含めて国内に合計11拠点のデータセンターを保有することから、これらを連携してBCP(事業継続計画)やDR(災害対策)に向けたソリューションも展開していく計画だ。

 両社の業務連携のさらに詳しい内容については、すでに報道されているので関連記事等をご覧いただくとして、ここからは筆者が印象に残った両社首脳の発言と、クラウドビジネスの観点からみた両社の提携の意味について考えてみたい。

クラウドビジネスが異業種提携を促進

 筆者が印象に残った両社首脳の発言として、まず冒頭にも紹介した大日本印刷の高波副社長のこんなコメントがあった。

 「当社の強みは、印刷技術を中心として顧客企業や消費者に近いところのフロントオフィス業務のノウハウにあるが、ここにきてそれにビッグデータへの対応や基幹システムを連携したいというニーズが急速に高まってきた。これに対応するためにはICTのパワーが不可欠となってきた」

 一方、日本ユニシスの黒川茂社長の発言では、こんなコメントがあった。

 「当社は今回の提携によって、大日本印刷が持つ3万社を超える顧客企業への対応に向け、その先の市場も見据えて利用者視点のサービスの展開を加速させ、新規市場の開拓とシェア拡大にまい進したい」

 印象に残ったのは、高波氏の「ICTのパワーが不可欠」、黒川氏の「3万社を超える顧客企業への対応」という言葉に、今回の提携に対するそれぞれの思惑を強く感じたからだ。お互いに期待している最大のポイントといえよう。

 さて、ではクラウドビジネスの観点からみて、両社の提携はどのような意味を持つのか。そのキーワードはまさしく「異業種提携」にあるのではなかろうか。これまでクラウドといえば、ICTベンダーやネットサービスプロバイダーが推進するビジネスという印象が強かったが、これからは異業種でも資本力のある企業ならば、どんどんクラウドビジネスに参入してくる可能性がある。

 しかし、そうした異業種企業にはICTやネットサービスのノウハウが乏しい。大手企業では今、プライベートクラウドに取り組むことによって、クラウドの技術ノウハウを蓄積しつつある。ただ、そこからパブリッククラウドサービスを展開しようとすると、やはりICTやネットサービスのノウハウが不可欠となる。それを解決するのが、異業種提携というわけだ。

 すでにICTベンダーやネットサービスプロバイダーではない企業が、パブリッククラウドサービスを手がけている事例は出てきている。例えば、宅急便で知られるヤマトホールディングスが昨年夏にIaaS型クラウドサービス「クロネコデータセンター クラウド(IaaS)」を提供開始している。傘下のヤマトシステム開発がサービスを運営しており、ネットワンシステムズがこの仕組みの構築・サポートを行っている。

 このヤマトホールディングスのように、本業との連携も見込める資本力のある企業が、クラウドビジネスに本格参入するのは想像に難くない。今回の大日本印刷と日本ユニシスの場合は、単独ではなく異業種提携によって、クラウドビジネスをさらにダイナミックに展開しようというものだ。

 その意味では、今後こうした異業種提携が相次いで出てくるのではないか。クラウドビジネスが異業種提携を促進するともいえそうだ。大日本印刷と日本ユニシスがその口火を切ったように思えてならない。

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