本社移転で場所にとらわれない働き方を追求した「Thin Office」を構築するITサービス企業のクオリカ。その働き方の基盤ともいえる同社での仮想デスクトップ(VDI)の導入や活用実態を紹介する。
Thin Officeの中核のICT技術は仮想デスクトップ(VDI)である(図1)。クオリカは、VMwareのVMware Viewを選定し、VDIを導入した。VDIの導入は初めての取り組みであり、工程がオーバーラップしたり、手戻りが生じたりしたが、振り返って整理をすると、次の工程を経て導入を行った。
導入にあたり、検討した主な事項、評価結果、判断理由などについて、経営者やCIOの観点で紹介する。
VDIの導入効果は多数ある。表1に具体的な効果を列記した。VDIだけを導入した場合でも、災害対策やセキュリティの強化、内部統制の強化あるいは「シャドーIT」(管理されていないICT利用)の防止などに大きな効果を発揮する。PCの管理に関わる要員やコストも減る。
さらに、インターネットを利用して社外から接続可能にし、BYODによって社員が個人所有するPCなどをVDI端末として活用する。これにより、さまざまなワークスタイル変革へとつながり、大きな効果を得られるようになった。
従来はノートPCなどを使って似たようなことはできたが、PC自体にデータを保管するため、データの漏えいや紛失、盗難が避けられなかった。VDIにすれば、セキュリティの問題は生じない。また、常に最新の情報にアクセスできる。軽量のタブレットでも端末になるので、重い端末を持ち歩く必要が無い。
VDI導入の課題とリスク
VDIの効果を否定する人はいない。サーバやネットワークと同様、デスクトップも仮想化が進むということは共通の認識になっている。ただし、実際にVDIを導入しようとすると、課題やリスクがある。重要な課題は、導入と運用のコスト、PCアプリケーションの標準化である。重要なリスクとは、システムの機能と性能、そして、信頼性だ。
前回、Thin Officeが「第30回IT賞」を受賞したことを紹介したが、IT賞の前身は「OA(Office Automation)賞」であった。つまり、世の中がOAに取り組みを始めて30年経ったということになる。30年かけて皆で努力して今のオフィスの仕組みを作ってきたのだから、PCを仮想化するにあたり、課題やリスクがあるのは当然と考えるべきだろう。
クオリカでは、自社のデータセンター利用を前提としてVDIの導入にあたった。そのためのコストは、各種ソフトのライセンスや運用要員のコストを加味して算出し、費用対効果を検討した。具体的な金額は、利用するサービスの価格などにより一概には言えないが、一つの参考値として、この実績を加味して決定した弊社のクラウド型デスクトップサービス「Thin Office」の価格が参考になるだろう。その価格表の一部を表2に示す。
この価格をベースにすると、初期費用やオプション費用を除けば、以下が料金の目安となる。
VDI利用コスト月額=29万円+2700円×(n-50) (n=利用者数,>50)
この金額は、自社でVDIシステムを構築して運用するのであれ、DaaS(Desktop as a Service)を利用するのであれ、現時点でVDIを利用する場合の費用の目安とお考えいただいてよい。利用者が十分に増えれば1人あたり月額3000円を下回る。
ただし、注意していただきたい点が一つある。上記のVDIのサービス費用には「VDI端末」の費用を含んでいないということだ。VDIは仮想化されたデスクトップ環境であり、物理的な端末は、利用者がTPOに応じて柔軟に使い分けることになる。VDIを導入するということは、これまでPCに縛られていた端末を見直す機会でもある。
このように、VDIを利用する場合のコストは、従来のPC利用コストに比べてまだ高い。しかし、これまでもPCのハードウェアのリース料、導入時のキッティング費用、保守費用、廃棄時の処理費用などを合わせると、1台当たり月額2000〜3000円程度の費用がかかっていた。こういった費用を考慮すると、VDIのコストも、これに近いレベルまで下がってきており、VDI導入で得られる効果の方がその差よりも大きい。
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