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» 2013年08月19日 08時00分 UPDATE

Weekly Memo:AmazonのベゾスCEOはWashington Postを生かせるか

Amazon.comのジェフ・ベゾスCEOが米有力紙のWashington Postを買収する。果たしてベゾス氏はWashington Postを生かすことができるのか。

[松岡功,ITmedia]

初のネット企業経営者による有力紙買収

 ついにこういう時代が来たか――。米Amazon.comの創業者でCEOのジェフ・ベゾス氏が、米有力紙のWashington Postを買収するというニュースを聞いて、そう思った方々も少なくないだろう。米新聞業界はオーナーの交代が相次いでいるが、インターネット企業の経営者による有力紙の買収は初めてのことだ。まさしくメディア産業の構造変化を感じさせる出来事である。

Amazonのジェフ・ベゾスCEO Amazonのジェフ・ベゾスCEO

 報道によると、米Washington Post社が8月5日(現地時間)、主力紙のWashington Postを含む新聞発行事業をベゾス氏に2億5000万ドルで売却することで合意したと発表。買収はベゾス氏個人によるものでAmazon.comは関与しないとしている。買収手続きは2カ月以内に完了する見通しで、Washington Post紙の編集幹部からは留任し、約2000人の社員も解雇しない予定だという。

 ベゾス氏は社員への声明で、買収完了後も事業運営は現体制に任せ、オーナーである自分の私益に使われることはないと説明。その一方で、ネットが報道のあり方を変えているとして変革を求めていく考えを示した。

 1877年に創刊されたWashington Post紙は、ニクソン大統領の辞任につながった「ウォーターゲート事件」など、多くのスクープを報じてきた米国を代表する新聞の1つとして知られる。ただ、台頭するネット媒体などに押され、1990年代には80万以上あった発行部数は今年3月時点で約47万部まで減少。広告収入も減少傾向に歯止めがかからず、過去6年間で売上高は44%減少しており、取締役会は売却を検討しはじめていたという。

 これまで80年間にわたってWashington Post紙の経営に関わってきたグラハム家のドナルド・グラハムWashington Post社 会長兼CEOは、売却先となるベゾス氏について、「デジタルとモバイルの時代に読者をいかに増やすか、広告主とどんな関係を築くかを誰よりもよく知っている」とコメント。実は、グラハム氏とベゾス氏は以前から交友関係を続けてきたそうで、その信頼関係が今回のやり取りのベースになっているようだ。

 では、買い手側のベゾス氏にとって今回の買収はどんな狙いがあるのか。同氏にとって2億5000万ドルという買収金額は個人資産の1%にすぎないことから、慈善事業のつもりではないか、との声も聞かれるが、さまざまな情報を整理すると次の3つの見方が浮かび上がってくる。

ジャーナリズム持続へ一大チャレンジ

 1つ目は、Amazon.comのビジネスとの相乗効果だ。電子書籍や音楽、動画など幅広いコンテンツを顧客一人ひとりの嗜好に合わせて届けるAmazon.comの技術やサービスは、Washington Post紙の読者層拡大にも活用できると見る向きは少なくない。特に同紙は有料の電子版でも出遅れていることから、こうした相乗効果への期待は当然の流れだろう。

 2つ目は、政治的な影響力や発言力を確保することだ。発行部数が減少してきたとはいえ、Washington Post紙の政治的な影響力は今も別格といわれる。税制、プライバシー、知的所有権、労働問題など、ネット企業が多額のロビー活動費を投じている政策課題は、Amazon.comにとっても重要なテーマだ。この見方については、ペゾス氏に思惑がないとしてもWashington Post紙を買収したことで今後もついてまわるだろう。

 そして3つ目は、ジャーナリズムを持続させることだ。先ほども紹介したように、Washington Post紙は多くのスクープを報じてきた米国を代表する新聞の1つで、ジャーナリズムを象徴する存在の1つともいえる。これまでは新聞社が潤沢な資金を基に、ジャーナリズムを追求する記者を育ててきたが、新聞社自体の経営不振でその人材育成の土台が今、大きく揺らいでいる。

 ベゾス氏に近い筋の話によると、同氏は以前からジャーナリズムに強い関心を抱いていたという。同氏が今回Washington Post紙へ寄せた声明にも「ジャーナリズムは自由な社会で不可欠な役割を担う」と述べている。ただし、「既に考え抜いた計画があるわけではない。地図に描かれていない領域で新しいことを考え、試していかなければならない」とも語っている。

 こうした文脈からみると、ベゾス氏はメディア産業の構造が変化する中で、ジャーナリズムを持続可能なビジネスにするべく一大チャレンジをしようとしているのではないだろうか。それが今回のWashington Post紙買収の動機であり、狙いではなかろうか。

 ベゾス氏は今後、Washington Post紙を非上場会社として経営する予定だ。とすると、当面の利益や株主への配当を気にする必要はない。これも一大チャレンジへの足場作りと見て取れる。

 ただ、これもまたジャーナリズムの視点でいうと、特定企業や団体のトップがオーナーである新聞は、政治利用や都合の悪いニュースを掲載しないなどの懸念もつきまとう。が、そこはガバナンスの徹底を期待して、まずはベゾス氏の一大チャレンジに大いに注目したい。

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