IT部門が不安視するコンシューマITを利用した情報交換コンシューマITの企業活用(1/2 ページ)

情報の共有や交換において、コンシューマ向けのサービスが使われるシーンが広がっている。その理由は利便性や生産性の向上だが、管理性やセキュリティの不安を理由に、導入や活用に後ろ向きなIT部門は多い。本連載では目的達成のためにIT部門が考慮すべきポイントを解説していく。

» 2014年06月10日 08時00分 公開
[森本純(トレンドマイクロ),ITmedia]

 スマートフォンやクラウドサービスの台頭により、コンシューマのIT環境が一変している。利用者に圧倒的な利便性をもたらすこれらのツールやサービスは企業にも普及しつつある。一方で、情報漏えいをはじめとするセキュリティリスクの増大を恐れ、従業員のモバイルや外部クラウドサービスの業務利用に、消極的な意見を持つIT管理者は少なくない。本連載では全3回にわたり、クラウド・モバイル時代における従業員の安全な情報共有・交換手段の在り方について考察する。第1回目は、多様化する情報交換手段の企業活用におけるIT管理者の懸念をひもとく。

多様化する従業員の情報交換手段とそこに起こる新たなセキュリティリスク

 スマートデバイスの普及によって起きたことの一つが、「情報交換手段の大変革」だ。スマートフォンひとつで、いつどこにいても多種多様・大容量のデータにアクセスができる。ユーザーが手にした情報はSNSを通じて瞬く間に拡散、ボーダレスに共有される。インターネット上の情報交換において、いわゆる「場所・物・時間」の制約が取り払われつつある(図1参照)。

図1 図1:ITの多様化に伴う情報交換手段の変化

 読者の職場で、この新たな「情報交換の自由」はどこまで認められているだろうか。自前のタブレットやスマートフォン、プライベートで利用しているGmailやDropboxなどを、(勝手に使うのは別として)業務でも自由に使うことを認められている人は少ないであろう。

 実際、トレンドマイクロが2013年末に企業のセキュリティ管理者や担当者を対象として行った調査では、個人向けクラウドストレージの業務利用(※1)やBYOD(※2)を全従業員に認めている会社は、いずれも全体の1割に満たなかった(グラフ1参照)。

グラフ1 グラフ1:勤務先で従業員がこれらの行為を行うことを認めているか(n=500)

※1:個人向けクラウドストレージ:DropboxやOneDriveなど一定容量まで無料で使えるコンシューマ向けのクラウドストレージ

※2:BYOD(Bring Your Own Device):従業員が私物の携帯機器やタブレットなどを企業内に持ち込んで業務に活用する行為

企業ITが変化している

 スマートデバイスやSNSが企業の業務で活用されるなど、元々コンシューマ向けに開発されたツールやサービスが企業で利用されている状況を「コンシューマライゼーション」と呼ぶ。

 コンシューマ向けのツールやサービスは、消費者のニーズを満たすために、使いやすさや利用時の楽しみといった要素が徹底的に追求されている。当然ながら、便利で(しかも使っていて楽しい)ツールやサービスを業務でも利用したいという従業員の欲求は自然に高まる。

 実際、メールに添付できない大容量のファイルをクラウド上で手軽にやり取りできるなど、多くの人にとってプライベートで使い慣れたツールやサービスでの作業は、これまで以上に業務効率が上がると期待するわけだ。コンシューマライゼーションで従業員が享受する利便性は、単に便利という言葉では片付けられない。もはや業務を遂行する上で、それらのツールやサービスの利用が必然となっている従業員もいるだろう。

 企業としてコンシューマライゼーションを業務の効率化やビジネスチャンスの拡大に生かすという判断もある。その反面、コンシューマライゼーションが進むことにより、情報の伝達、保管手段が多様化し、業務に関わる情報が分散化することが懸念される。

 そもそもコンシューマ向けのツールやサービスでは、「統制」「や「管理」といった企業利用で必須となる要素が、製品・サービス開発の段階で想定されていないため、元々の機能として備わっていない。コンシューマライゼーションを活用してビジネスメリットを創出しようとする企業において、IT管理者は導入するツールやサービスの管理、とりわけ企業の情報資産を守るためのセキュリティ対策について頭を悩ますことになる。

 このように、従業員と管理者における意識が相反する中で従業員の欲求が高まっていくと、企業として許可していないツールやサービス――つまり、IT管理者の統制・管理下にないツール・サービスを従業員が勝手に業務で利用する「シャドーIT」の問題が発生しかねない。また、ビジネスメリットの創出というプラスの側面が検討されることなく、これらのツールやサービスの利用が全面的に禁止されてしまうと、企業としての競争力強化の機会を知らず知らずのうちに失ってしまうだろう。

 グラフ1の設問ではBYODと個人向けクラウドストレージの利用に関し、シャドーIT(可能性も含め)が存在するとの各回答(※3)が約1割、会社として導入是非を未決定との各回答が約1割、全面的に禁止しているとの各回答が約半数にのぼっている。

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