コンピュータの世界を変える、ハードウェアの雄が仕掛けるITの新しい形HP World Tour Report(1/2 ページ)

HPがインド・ムンバイでアジア太平洋地域の顧客やパートナー、メディア向けイベントを開催した。「New Style of IT」をテーマに、HPの変革事例や新たなコンピューティングの方向性を提示した。

» 2014年07月03日 07時30分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 米Hewlett-Packardは、7月2日からインド・ムンバイでアジア太平洋地域向けのイベント「HP World Tour」を開催している。初日と2日目はMedia Summitと題し、日本を含む同地域の100人近いメディア関係者に同社が2013年から提唱している「New Style of IT」というビジョンに関する最新の取り組みを紹介した。

会場となったのはムンバイの金融街にほど近いHyattホテル。メディアカンファレンスの後にユーザーカンファレンスが開催される

 このイベントは2013年に中国・北京でスタート。2回目となる今回は、近年成長著しい新興国の1つであるインド西部のムンバイが舞台だ。ムンバイは近世に港湾都市として成立し、今では同国最大の経済都市となった。街中には近代的な高層ビルが立ち並ぶが、その合間には低層住宅もひしめく。職を求めて多くの人々が地方から集い、大都市としてダイナミックな発展を遂げている最中のムンバイは、まさに“New Style”を体現するにふさわしい場所と言えるだろう。

コンピュータのアーキテクチャを変える

米系ITベンダーの日本法人でも要職を歴任してきたジム・メリット氏

 まず登壇したアジア太平洋・日本地域担当エンタープライズグループ シニアバイスプレジデント ゼネラルマネージャ兼日本HP社長のジム・メリット氏は、直近のHPの経営状況について触れた。ハードウェアビジネスなどの低迷から過去数年間に大規模リストラを敢行した同社だが、2013年は財務面が大きく改善。メリット氏は2014年を「再建&拡大」の1年に位置付けているとし、2016年にIT業界をリードする企業として復活すると宣言した。

 New Style of ITはこうした同社自身の変革のみならず、IT業界の新たな潮流であるモバイル、クラウド、ビッグデータ、セキュリティを顧客が駆使することで変革を成し遂げ、そこから生じる価値を存分に享受してもらうというメッセージにもなっている。

New Style of ITで実現されるものの一例。新しいITの仕組みを使い、新たな価値創造を生み出すというビジョンだという

 メリット氏は、その一例として「The Machine」というハードウェアの方向性を示した。The Machineは特定用途型のコアと「Massive Memory Pool」、その2つをフォトニクス技術をつなぐというもので、HPの中央研究所(HP Labs)で研究開発が行われているという。

 特定用途型のコアとは、現在まで主流の汎用型コアを用途に応じて利用する伝統的なスタイルから脱却し、ワークロードごとに最適化することで高効率性や低消費電力化などを実現しようというもの。その第一弾が2013年に発表した「Moonshot」サーバになるという。Massive Memory Poolは、SRAMやDRAM、フラッシュなどの異なる特性を持つメモリを組み合わせることで、データの高速アクセスや不揮発性などを両立させることを目指している。

The Machine

 こうしたハードウェアの能力を引き出すには、熱の発生や電力効率、微細化などが限界に近づきつつあるとされるメタルケーブルから光ケーブルへの転換が必要になるため、フォトニクス技術でこれを実現する。メリット氏はThe Machineが新たなコンピュータアーキテクチャを創造するとし、2020年までに順次OSやSDK、エコシステムの形成などに取り組んでいくと説明した。The MachineはHPの将来の成功を約束するものだという。

New Styleの道筋を示す

 New Style of ITによって実現される姿とはどんなものか。エンタープライズサービス担当シニアバイスプレジデント ゼネラルマネージャのブルース・ダルグレン氏は、その姿は企業の求めるところによって様々ではあるが、そのためにはまず現在の姿を理解し、企業が目指すべき方向とその道筋を具体的かつ明確に描くことが必要だと語った。

 例えば、企業のIT予算のうち運用・保守など現在の環境を維持するためのコストが6〜8割と占め、新規開発などに割り当てられる予算は2〜4割ほどしかない。IDCなどの調査機関はIT予算の総額が今後も横ばいになると予想している。新規分野に対する投資を増やすには維持コストの比率を減らすか、比率を変えずにROIを確実に生み出さなくてはならない。

 ダルグレン氏は、新たにIDCと連携してアドバイザリーサービスを拡充し、New Style of ITとアプリケーションの近代化、モビリティ、データ分析、セキュリティの分野で企業顧客に、現状評価からワークショップと通じたビジョンや戦略の策定、手法、プロセスまでを一気通貫で提供していくと述べた。

 この取り組みは6月に米国の同社カンファレンスで発表されたものだが、「第三者機関による正当な分析評価をもとに、変革に必要なものを包括的に提供することによって、顧客の新しいスタイルを実現する。先のカンファレンスでは参加企業の半数以上がこのサービスの利用を希望した」(ダルグレン氏)とのことだ。

 なお、インドではNew Style of ITによる具体的な成果が遠隔医療という形で生まれている。HPは医療機関やNPOと協業して、「eHealth Center」という遠隔医療サービスをインド国内の6州で展開する。インドでは人口の7割以上が農村部に住み、医療機関の75%が都市部にある。eHealth Centerは、輸送可能なコンテナにクリニック設備やコンピュータ・通信システムを備え、地域の医療格差を解決する仕組みとして期待されている。

eHealth Centerの様子。コンテナ型データセンターも手掛けたHPだけに、こうしたカタチの社会貢献もユニークだ

 利用者は2年間で2万3000人に上っており、病気や怪我をした人をケアするだけでなく、診療データをクラウドに集約、分析して農村部における疾病予防に役立てる取り組みに発展しつつあるという。HPでは9月以降にeHealth Centerをフィリピンやブータンにも拡大し、順次グローバル展開していく計画である。

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