IoTで通信業界が注目する新たなセキュリティのしくみ(1/3 ページ)

「モノのインターネット」(IoT)ではデータを利用した様々なサービスが期待されるものの、セキュリティリスクも懸念される。データを流通を支える通信業界ではどんなセキュリティ対策が注目されているのか。

» 2015年06月04日 08時00分 公開
[ITmedia]

 いまIT業界で流行する言葉の1つが「モノのインターネット」(IoT)だ。インターネットに接続される“モノ”から集められたデータを利用する様々なサービスの実現が期待される。しかし、サイバー攻撃者にとってIoTに何らかの“旨み”があれば、IoTを狙うのは自明の理ともいえる。IoT時代の到来に備えて情報流通のインフラを担う通信業界ではどのようなセキュリティ対策が考えられているのだろうか。

日本の産業競争力に不可欠

 NTTコミュニケーションズは6月2日、「IoT×セキュリティ」と題する報道機関向けの説明会を都内で開催し、IoTが社会にもたらす効果やセキュリティ対策について解説した。

 IoTといっても、その実態は分かりにくい。技術開発部 IoTクラウド ストラテジックユニットのチームリーダーを務める境野哲氏は、「IoTではモノだけではなく人間も情報発信に関与する。似た言葉に『M2M』(Machine to Machine)があるが、M2Mでは人間は介在しない。IoT機器にはメガネや腕時計といったウェアラブルデバイスも含まれる」と語る。つまり、機器や人からインターネットを介して集められるデータや情報を分析、利用し、サービスを提供することがIoTの世界観となるようだ。

 米Cisco Systemなどの予測によれば、東京五輪が開催される2020年には世界で500億台の機器がインターネットに接続され、1人あたり約7台のインターネット接続機器を保有するようになるという。IoTで実現されるサービスは様々だが、身近なところではウェアブルデバイスで収集した血圧や心拍数などのデータを蓄積して健康管理に役立てるサービスが登場している。

 境野氏は、IoTに対する期待が高い分野として産業界を挙げた。その理由は、日本の産業競争力が低下しているためだという。

 経済産業省の2014年版ものづくり白書によると、日本・欧米では長期的に産業競争力が低下している一方、アジアの台頭が著しい。特に2008年の金融危機を契機に、国内では生産拠点の海外移転が加速して国内の生産力が減少している。直近の円安基調で国内メーカーの業績は回復しつつあるが、生産力の回復はすぐには望めない。さらに、少子高齢化に伴って労働人口は毎年減少していく。

産業競争力の向上には戦略的なIT投資が必要(NTTコミュニケーションズ説明会資料)

 こうした状況で国内の産業競争力を高めるには、ややM2M寄りの視点ではあるが、ICTやロボットなどの技術を利用したIoTが不可欠だという。ドイツでは「Industry 4.0」と称する生産のデジタル化、自動化、仮想化を通じてコストを極限まで小さくし、産業競争力を高める政策が進められている。日本でも同様の期待が産業界から期待され、積極的に取り組むメーカーは多い。

 ただ、IoTの活用に伴うセキュリティリスクは大きな懸念であるという。2010年にイランの原子力関連設備の破壊を狙ったとされる「Stuxnet事件」でその懸念が具現化し、2011年には国内の重工各社を狙う標的型サイバー攻撃の被害が相次いで発覚した。

IoTで予想されるセキュリティのリスクと対策(同)

 説明会に登壇したバーチャル・エンジニアリング・コミュニティ事務局長の村上正志氏によれば、国内の生産設備などに対するサイバー攻撃は5分に1回のペースで発生している。同氏は、「設計関連データや設備の生産能力を知るといったスパイ行為から、施設の機能を破壊するもので非常に多く発生しているのが実態だ。2014年には国内で約3万以上のシステムがインターネットに公開されてしまっている実態も分かった」と警鐘を鳴らす。

 IoTの活用で産業競争力を高めるには、ITの世界ではおなじみの汎用的なオープン技術の利用が避けて通れないとされる。産業系システムでは昔から独自のシステムやネットワークが利用され、外部からのサイバー攻撃などに対して非常に高い耐性を持っていた。ところが、現在では独自システムが故のコスト体質が、産業競争力向上の足かせになっているとも指摘される。

 産業界でのIoT活用は、汎用技術を利用した効率的で安定性に優れた生産体制の実現とセキュリティリスクに強い堅牢性の実現が焦点になるという。そこで通信事業者のNTTコミュニケーションズは、メーカーなどの企業顧客にプライベートクラウドとIP-VPNによるサービスを訴求している。安全性の高いネットワークやデータセンター基盤とその運用などをサービスとして一体的に提供することで、IoT活用の普及とビジネスの拡大を図る狙いがあるようだ。

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