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» 2016年05月11日 10時00分 UPDATE

Computer Weekly:「ムーアの法則」の復権──消費電力を1/100にする新トランジスタの可能性

IBMが研究を進めている「圧電効果トランジスタ」は、消費電力を大幅に抑える可能性を秘めている。CPUの高速化、バッテリー寿命の延長、デバイスの小型化などが実現するかもしれない。

[Mark Stewart,Computer Weekly]
Computer Weekly

 1991年、ソニーはトランジスタ工学を駆使して持ち運び可能なリチウムイオンバッテリーを商品化した。これにより携帯電話やノートPCに革命が起こり、タブレットやスマートフォンが登場する下地が作られた。

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 それから4半世紀、リチウムイオンバッテリーに大きな進化は見られない。当初は進化の必要がなかった。ハンディービデオカメラに求められるバッテリーのサイズや重量など、ソニーとっての初期の問題はリチウムイオンバッテリーによって一部解決された。また、その当時一般消費者が利用する携帯電話にとっても適切な解決策だった。

 これは2000年代始めまで変わることはなかった。当時の携帯電話なら、バッテリーを再充電しなくても終日使えたからだ。だが、この10年で完全にスマートフォンの時代に突入し、機能やパフォーマンスが飛躍的に向上した。それにもかかわらず、バッテリー寿命だけは依然変わらない。これが問題になっている。

 最新のスマートフォンは以前に比べて10倍以上高速になっている。ところが、バッテリーは平均的な使い方をしても終日もてばもうけものというありさまだ。初期「iPhone」と「iPhone 6s」に大きな機能差があることを考えると、バッテリー寿命が変わらないことは驚きだ。だが、この問題ではバッテリー寿命を延長することよりも、プロセッサとの関係性を改善する方が重要視されている。

 現在、研究者によって「圧電性トランジスタ」物質の開発が進められている。この物質により、現在の10分の1の電圧でプロセッサが駆動する可能性がある。その結果、消費電力が100分の1未満に抑えられ、バッテリー寿命が飛躍的に向上する。

 この新たな圧電性物質は、加えられた電圧に応じてその形状が変化する。つまり、「ひずみ」が生じる。電圧を下げると元の形状に戻る。

 この物質の力学的性質と電気的性質には密接な関係がある。電圧を掛けることで物質の分子双極子モーメントが強制的に再配向され、その結果として物理形状に変化が生じる。この関係性には可逆性がある。そのため、圧電アクチュエーターによって生じたひずみを加えることでピエゾ抵抗物質の絶縁状態と伝導状態を切り替えることができる。それによってデジタル情報を読み書きできる可能性がある。

圧電効果トランジスタ

 IBMの研究者が、圧電効果トランジスタ(PET)テクノロジーに関する初の特許を申請し、この圧電性物質に基づいたプロトタイプデバイスを開発した。このプロトタイプデバイスは、圧電性物質と高収率物質の剛構造でピエゾ抵抗物質を挟み込む形になっている。このプロトタイプではナノインデンターとサファイア板が使用されている。

 このプロトタイプは、電圧を加えることで伝導状態と絶縁状態が切り替わる。これにより圧電層の厚みが変化するため、ひずみ誘起による非常に大きな圧力がピエゾ抵抗物質に掛かる。この一連の事象はほぼ瞬時に発生し、従来のトランジスタを実現している物理法則よりも効率がはるかに高い。IBMは現在このデバイスの開発をチューリッヒにある研究施設で行っている。

 PETテクノロジーが利用されるかどうかの鍵は、効率性の向上にある。効率の悪さはほぼ常に「熱」という形で認識される。PCのプロセッサをオーバークロックした経験があれば分かることだが、クロック周波数を高くするほど発熱も大きくなる。発熱はサーバファームにとっては特に問題だ。発熱に対処するために、サーバファームを水中に建設することをMicrosoftが提案しているほどだ。

 これまでのところ、PETテクノロジーとそのプロトタイプは研究の域を出ていない。市場への投入を加速するには、圧電性物質の仕組みとその能力を最大限に引き出す方法の理解を深めるために、計測の精度を高め、計測のベストプラクティスを探す必要がある。

Nanostrainプロジェクト

 「Nanostrain」プロジェクトは、ナノスケールの圧電性物質のひずみを制御することで得られるビジネスチャンスを開拓することが目標だ。同プロジェクトには欧州計量研究プログラム(EMRP)が出資し、目標の実現に向けて国立研究所、世界クラスの研究機器施設、欧州全土の営利企業が結集している。

 Nanostrainプロジェクトは、さまざまな斬新な技術を用いることで、高圧力と電場の実際の関連条件下におけるナノストレインの特性を評価する新しいツールを開発している。英国の国立物理研究所が、グルノーブルにある欧州シンクロトロン放射光研究所(ESRF)のXMaSビームラインと連携し、薄膜のひずみ限度を計測する新技術を開発したのがその一例だ。

 この装置を使用すると、加えられた電圧に対して圧電性物質がどう反応するかを調査する方法を得ることができる。圧電性物質の構造特性について詳しい実態が分かるようになるため、その電子輸送特性の詳細も明らかになる。

 このNanostrainプロジェクトが成功すれば、処理能力のさらなる向上によって、スマートフォン、タブレット、ノートPCのユーザーにさまざまなメリットがもたらされる可能性がある。インターネットアクセスの高速化、デバイスの軽量化、バッテリー寿命の延長、エネルギー消費の削減など、今まさにスマートフォンメーカーが頭を悩ませている問題に効果がある。

 こうした機能があれば、ムーアの法則が復活し、コンピューティングの新時代を迎えるかもしれない。

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