「先輩を見て学べ!」を次のレベルへ――アイトラッキング技術が工場を変える

工場や現場作業者が抱えがちな課題である技能の継承。グローバル化や熟練作業員の高齢化といった問題もあり、ニーズが高まっているそうだ。これをアイトラッキングの応用で解決するソリューションが「IoT/M2M展」で紹介されていた。

» 2016年05月12日 14時00分 公開
[東侃輝ITmedia]

 「目は口ほどに物を言う」ということわざがあるが、これまで人間の目が持つ“饒舌さ”は、まだまだビジネスには活用し切れていなかったようだ。近年、それを可視化し、価値ある情報を生み出す技術が開発され、注目を集めている。

 その1つがアイトラッキング(視線計測)だ。人が目を向けた部分や、その動線が分かり、見た人が計測対象のどこに注目したのかを可視化できる。この技術は主にマーケティング領域で活用され、小売店での消費者の視線や、最近ではWebページや広告のデザイン、印象評価に使われるなど、ユーザビリティを測る手法の一つとして重宝されている。

photo アイトラッキングを活用したマーケティングの参考画像。目を向けた部分の頻度がヒートマップで表示されている
photo 眼鏡型ウェアラブルデバイス「Tobii グラス」。カメラやマイク、HDMI端子も備えており、映像と音を無線LANで送信できる

 5月11日から13日まで、東京ビッグサイトで開催している展示会「第5回 IoT/M2M展」では、アイトラッキング分野で大手のトビーテクノロジーが、マーケティング以外での活用法を紹介している。特にここ1年ほどで急速に工場や現場作業者でのニーズが高まっているとのことだ。

 作業者にアイトラッキング用の眼鏡型ウェアラブルデバイス「Tobii グラス」を装着して、彼らの視線を可視化すると、同じ作業をしていても、慣れているほど視線の動きが少ないことが分かったという。この知見をベースに開発された同社のサービスは、視線と作業過程を照らし合わせて分析することで、技能継承を効率的に行えるようにするのが狙いだ。

 「背中を見て学べ」という言葉があるように、これまで新人の作業者は、マニュアルや熟練者の「姿」を見て必死に作業工程を学ぶしかなかった。しかし、アイトラッキングを通じて熟練者自身と同じ視点で作業を確認しながら学ぶことで、より効率良く、質の高い作業を覚えられるようになるという。

photo Tobii グラスのフレームには多数のカメラやセンサーが付いており、目の動きや視線を検知する

 Tobii グラスはカメラやマイクも備えており、映像と音を無線LANで送信し、別地点からリアルタイムで視聴することも可能だ。これをインカムなどと組み合わせれば、より的確なサポートや指導ができる。

 工場におけるニーズの高まりについて同社は、「海外拠点の工場が増え、言語の違いなどから従来の方法では運用や技能継承が難しく、効率化がより求められているのではないか」とみる。この用途は日本特有のものなのだという。今後はさらなる人材不足や熟練作業者の高齢化といった問題が深刻になるはずで、後進の人材を確保、育成することが多くの工場にとって急務になるだろう。

 アイトラッキング自体の技術も発展しており、興味を示す業種や導入企業の幅も広がってきているという。“熟練のワザ”をどうITで共有、継承するか――VRなどの最新トレンドも絡め、今後もさまざまなソリューションが出てきそうだ。

photophoto Tobii グラスの工場への導入例。インカムなどと組み合わせれば、作業者により的確なサポートや指導ができるようになるという

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