第10回 システムが「壊れる」or「壊れない」、アジア諸国と日本の考え方の大きな違いとは?データで戦う企業のためのIT処方箋(2/3 ページ)

» 2016年06月21日 08時00分 公開
[森本雅之ITmedia]

データ管理における日本と欧米の違い

 それでは、振り返って日本の状況はどうだったのでしょうか。

 米国や欧州地域では、SDSやストレージの仮想化がサーバ仮想化と歩調を合わせるかのように、既に成熟期に入っており、特に大規模環境では一般的な選択肢の一つとして採用されています。これは、IT利用・運用環境の効率化を目的として、早くからファイバチャネル(FC)接続によってストレージをネットワーク越しに利用する方式が普及していたことにもよります。

 また、ユーザー企業側がシステム構成の選定を主導することも多く、安価なストレージを利用して自由に構築したいという運用面での要望と、継続して全体のコストを下げるという2種類の課題が常にあります。ここでの取り組みが担当者の業務成績に直結しています。人手では時間のかかる作業を「ソフトウェア定義」という方式で自動化、効率化できるとあって、ストレージ分野でも仮想化技術の採用が2000年代後半から一気に広まりました。

 一方で、日本のITシステム導入の歴史はメインフレームから始まっており、もともと業務システムをフルスクラッチで開発、構築することが多かったことから、複数のサーバやシステムでのデータを共有するという要求がそれほど高くはありませんでした。それに、複数ある国産ITベンダーそれぞれがユーザー企業向けに、非常に手厚いサポートを提供しているため、むしろ複数ベンダーが混在することで運用や管理が煩雑になる、サポートに制限が発生するといったデメリットをより強く意識されるようにもなっています。結果として、複数のベンダー製品を保有することやストレージを共有するような利用が広まらなかったのです。

 ユーザー企業側で専門的な知識を持つ担当者を継続的に配置することが難しいという事情もあります。システム設計を上流段階からSIerの提案に任せることが一般的であることも、複数のベンダー製品を組み合わせた構成が必要とされることが少ない理由の一つでしょう。一般的にシステムのデザイン、構成責任をSIerが担保するので、以前にはFCスイッチやアダプタなどで相互接続性が課題になっていましたが、業界標準規格が定着してきたことで、近年はほぼ解消されつつあります。

ピンポイント解説

 マルチベンダー構成やマルチSIer環境では、ユーザー企業から見ると「サポートがたらいまわしにされる」「ベンダーやSIer間の情報のやり取りのために手間と時間がかかる」といった課題が往々にして発生します。この不便さと不安感は、新しい技術を導入する際のリスク障壁になり得ます。この課題に対しても、さまざまなベンダーが競合の壁を越えて最新ITの利用を促進する目的で、相互にサポート情報をやり取りする基盤を提供する「TSANet」のような業界団体の利用も広まっており、利用者にとっての使い勝手の向上が図られてきています。

 ただし現時点で、TSANetは英語が標準的に利用されていることから、大手を除いた国内ベンダーの参加はまだ少ない状況ですので、より広い参加が望まれます。筆者の企業はTSANetにPremiumレベルで登録していますが、新興ベンダーの多くはLimitedレベルでの登録です。大抵のITインフラでは大手ベンダーのシステムが関連するため、カスタムグループ(サポート情報を共有するためのグループ)を大手ベンダー側で作成してもらえば利用できるという前提での選択だとみられます。


 これらの背景に加えて、モノづくりを自負する日本では「壊れないモノ」と同様に「壊れないITシステム」が最善、または当たり前であるという考え方が根付いていました。

 業務を運用しているサーバやストレージが壊れるとユーザーは困ります。ベンダーは、品質としてハードウェアであれば壊れにくい設計や製造、ソフトウェアであれば出荷後、カットオーバー後にバグができるだけ発生しない設計や実装を目指すことが当然です。しかし、「壊れない」という考え方は理想ではありますが、形あるモノはいつか壊れてしまいます。「壊れない」という目標に向かって「できる限り壊れにくい」システムを目指すことは大事ですが、これではコストが際限なくかかりますし、事例をもとにした前例主義が優先されるため、新しい技術の採用にもブレーキがかかってしまいます。

 そのため、特にITシステムは、「構成するコンポーネントは(ハードウェアにしろソフトウェアにしろ)壊れる可能性がある」という前提で、「壊れても業務に影響がないシステム」を目指すことが、今のクラウド時代において効率化とリスクのバランスを取る最適な方法になります。

 AmazonやGoogleのような大規模クラウドでは、壊れることを前提にしたシステムを構築したうえで、ビッグデータ解析によって壊れる前にシステムを移動する、縮退するといった自動運用まで実現しているといわれます。この仕組みを自社で持たずとも、各ハードウェアベンダーの保守サービスの一環で故障の予兆を監視し、通報するサービスを提供するところも出てきています。ハードウェアとしては、こういったサービスを活用した上で、OS、ハイパーバイザやアプリケーションの設計を加えて、「どこかが壊れても影響がない(少ない)システム」を実現することでコストを抑えつつ、業務上のリスクを回避する検討が必要になります。

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