踊るFinTech 夢中な金融機関とごう慢なITベンチャーの投資話からハギーのデジタル道しるべ(1/2 ページ)

さまざまな業界がFinTechに夢中だが、その熱があまりに過ぎると痛い目に遭うだろう。筆者が実際に見たITベンチャーへの投資に対する金融機関の無謀ぶりをご紹介する。

» 2016年09月02日 11時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]

 いま世界中が「FinTech」で大騒ぎしている。経済効果は100兆円を超えるなどといわれ、IoTと一緒に「黒船が来た!」と騒ぐ評論家も多い。「第四次産業革命」「インダストリー4.0」に乗り出すドイツのような国家的な取り組みとすべき経済学者、たった社員数人のスタートアップ企業におびえている金融機関たち――セミナーのタイトルに「FinTech」と入れるだけで満員御礼が続く。多分ほんの1、2年ビジネスの現場から離れていたり世の中の動きをトレースしていなかったりすれば、この変貌ぶりが全く理解できないだろう。

FinTechにご熱心な人は踊らされていないだろか?

 確かにFinTechの変わりようはすさまじい。米国政府機関の一部は、「このままでは銀行が壊滅するため、政府機関は金融機関を保護する必要性を強く感じている」という表現をしている。筆者もコンサルタントの現場作業の中で否応なくFinTechに絡む内容が増大している。そのような依頼も多く、その点だけはうれしい悲鳴なのだが。

 とにかく筆者もキャッチアップし続けないといけない。友人や知人の伝手を頼って省庁や日本銀行、メガバンクの動きを追い、キーマンの講演や有料セミナーを受講し、「FinTech」と記したあらゆる書籍やネットの記事を読んでいる。しかし「無知は罪悪」が筆者の信条であり、可能な限り知り、体験しようとして、はや2年が過ぎている。筆者も踊らされている人間なのかもしれない。

 さて、実際に金融界や産業界の現場では何が起こっているか。今回は、筆者が実際に見ている状況を紹介したい。事例の一部は以前の記事でも触れているが、異なる切り口なのでお目通しいただければ幸いだ。

FinTechの雰囲気に呑まれる金融機関

 筆者が顧問を任されている関西圏の某金融機関でのことだ。FinTechスタートアップ企業A社の役員や管理者に対し、出資などについて説明していた。それに対し、A社からこう提案があった。


「いかがでしょうか? 弊社に出資されたい金融機関様も他にも多数ありますので、取りあえず今月末(あと10日間しかない)までに、ご意志を表明してください。たったの〇億円です。〇〇銀行様、□□銀行様、××銀行様など多数の金融機関が資本参加の意志を表明していますし、金融庁でもFinTechを活用した経営を後押しされておりますよね」

「私どものツールやAPIを活用し、またはブロックチェーンの論理に基づいた◇◇も考えておりますし、貴行の全グループでその利用方法を検討することも構想しております。少ない費用で日本における先端技術を活用している金融機関として、大きな宣伝効果も期待できますよ」


 金融機関側からの質問は多少あったが、技術的な質問はない。いつまで意思表明すべきか、マスコミにどうアピールすればいいかということばかりである。出資の割引やA社のサービスを使う費用の見積りなどの質問に、A社も「割引は一切考えてない」と答えた。他の金融機関の希望も多いという理由だ。筆者はオブザーバーの立場で、発言も名刺交換も許可されなかった。じっと聞くことしかできなかった。

 その4日後に金融機関で取締役会が行われた。筆者は取締役陣に発言の許可をいただき、こう伝えた。

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