ブロックチェーンの敗者にならないためにCIOがやるべきことComputer Weekly

ブロックチェーンがパラダイムシフトを起こし、勝者と敗者を生み出そうとしている。この巨大なデジタル革命の時代に、CIOは何をやるべきなのか。

» 2016年09月07日 10時00分 公開
[Don Tapscott and Alex TapscottComputer Weekly]
Computer Weekly

 デジタル革命が起きている。根本的に異なる新しいプラットフォームが誕生し、企業や機関で使われ始めている。これから四半世紀、人類は進化を目の当たりにすることになるだろう。中核にあるのは、コンピュータ科学で100年に一度といわれる最大のイノベーションである「ブロックチェーン」だ。ブロックチェーンは、デジタル通貨「ビットコイン」を支えるプログラミング可能なオープンソーステクノロジーだ。

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 過去数十年利用してきたのは、「情報」のインターネットだった。だが、ブロックチェーンが実現するのは「価値」のインターネットだ。ブロックチェーンは、これからの四半世紀で全てを変え得る新しいアプリケーションや、実現には至っていない機能を数え切れないほど解き放つ可能性を秘めている。

 最も根本的に表現するなら、ブロックチェーンはグローバルデータベースだ。不正が入り込むことができない金融取引のデジタル台帳であり、金融取引のみならず、人間にとって価値があり重要性が高いものを事実上全て記録するようにプログラミングできる。例えば出生証明書、死亡証明書、婚姻届、権利証、卒業証明書、金融口座、医療措置、保険金請求、投票、スマートオブジェクト間の取引など、コードで表現できる全てのものを記録できる。この台帳は集団の協力によって絶えず調整される。そのため、この台帳が「真実」を表す。

 ブロックチェーン自体が完全性を確保するため、従来の感覚での相互信頼性は求められない。つまり、賢明なコードと集団の協力によって信頼性が確保される。ブロックチェーンという新しい価値のネイティブデジタルメディアに自己の利益をハードコードし、それが集合体となってオンライン商取引の「安全性」「セキュリティ」「信頼性」を確保する。ブロックチェーンが「信頼のプロトコル」といわれるのは、信頼がプログラミングされるためだ。

 複式簿記の発明が資本主義と国民国家の誕生を可能にしたと主張する学者がいる。今日では、ブロックチェーンという新しいプラットフォームにより、デジタル記録の照合、いわば「デジタル照合」が実現する。全てがインターネットを中心とする世界では、「あらゆるものを記録する台帳」が必要になる。ビジネス、商取引、経済にはデジタル勘定が必要だ。

21世紀型企業を作り上げる

 ブロックチェーンは、あらゆる企業、機関、政府、個人に、広範囲なメリットをもたらし得る。

 現代資本主義の柱といえる「企業」について考えてみる。自己証明、信頼、評判、取引をやりとりできるグローバルなピアツーピアプラットフォームの出現によって、企業の構造を深部から再構築できる。このため、イノベーションや共有価値の創造が促進される。つまり、産業化時代の縦割り型に統合される「階層式」企業ではなく、「ネットワーク式」の21世紀型企業を構築することが可能になる。金融サービス業界は既にブロックチェーンによって全体改革が進んでおり、他の業界も間もなく後を追うと予想される。

 IoT(モノのインターネット)についてはどうだろう。そう遠くない未来、現実の世界で、数十億ものスマートな「モノ」が、感知、応答、通信、重要データの共有を行うようになる。自家発電、電力の購入や販売も可能だ。また、環境の安全確保や家庭での充電、健康管理などにも一役買うだろう。このように、全ての中心がインターネットになると全てのものを記録する台帳が必要になる。

 これまで起きた大きなパラダイムシフトと同様、ブロックチェーンは勝者と敗者を生み出す。だが正しい方向に進めれば、ブロックチェーンテクノロジーは健全たる企業家精神の時代を導き、機関をよりよく作り変え、より公平で豊かな世界を作り上げることが可能になる。

 CIO(最高情報責任者)は、大きなチャンスと大きな課題の両方を手にすることになる。PC、Web、モビリティ、ソーシャルWebなどの大きなイノベーションと同様、ブロックチェーンの実験はIT部門以外から始まることが多い。思慮深いCIOはこれを前向きに捉えるだろう。なぜなら、最終的にはあらゆる企業がブロックチェーンをビジネスに利用することが予想されるため、あらゆるビジネスリーダーが変革のチャンスを探るべきだからだ。

 問題は、ITにまつわる課題は企業の課題にもなることだ。企業に求められることは多い。まず、真実が1つだけになるように、そしてブロックチェーンの能力を活用するために、企業構造を統合しなくてはならない。次に、悪意から身を守るため、セキュリティ標準とシステムを確保する必要がある。さらに、ビジネス継続性を保つためのバックアップ機能の確保も求められる。また、ビジネスサイロを横断するために、ブロックチェーンを活用する次世代コラボレーションツールやシステムの開発戦略を立てなければならない。最後に、「ブロックチェーン企業」になることにつきまとう種々の複雑さを解決する優秀なIT人材も必要だ。

ITの新たなモデル

 この課題の解決策となるのが ITの新たなモデルだ。このモデルではCIOの役割がかつてないほど重要になる。

 このモデルを「ブロックチェーンサービスのスーパーマーケット」と呼ぶことにする。仕組みはこうだ。CIOがビジネスニーズを予測し「ブロックチェーンアプリケーション開発の標準」「アーキテクチャに準拠するアプリケーション」から「ブロックチェーンのアーキテクチャと開発に関する専門知識を持つ優秀な人材」まで、サービスを潤沢に用意する。そして、これらを全てスーパーマーケットの「棚」に陳列する。

 ビジネス顧客はスーパーマーケット、つまりセルフサービスポータルやカタログにアクセスして、提供中のサービスを手に取る。顧客は自身に合ったレベルのサービスを選び、テクノロジーニーズに従って組み合わせる。

 CIOがまず取り掛かるべきことは何か? 幾つかアドバイスを紹介する。

  • ブロックチェーンテクノロジーを個人的に利用する。これは理解に欠かせないプロセスだ。スマートフォンでデジタル財布を入手して、デジタル通貨で何か購入してみるとよい
  • ブロックチェーンの革命について十分な情報を得る
  • 手始めに、ブロックチェーンに精通しているIT人材を養成または雇用する
  • 次世代のブロックチェーンアーキテクチャプロジェクトに着手する。どのような企業も、新しい投資を行って目指す未来へと進むために、目標となるアーキテクチャや移行戦略が必要だ
  • パイロットを立ち上げる。このパイロットで学びと経験を得て、最初の成功を収められるようにする。理想は大きく、取り掛かりは小さくする

 また、素早くスタートを切ることが重要だ。インターネットの第二期は第一期よりもずっと早く訪れる可能性が高い。そのための条件が既にそろっているからだ。

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