FinTechブームに踊らされる残念な金融機関の実態ハギーのデジタル道しるべ(1/2 ページ)

日本の金融業界では「FinTech」ブームが続いている。前回はそれに踊らされる金融機関の実態を紹介したが、今回もその残念な事例を取り上げてみたい。

» 2016年09月16日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]

 これは昨年(2015年)に、山陰地方のある金融機関で起きた話である。

 「FinTech」という単語だけが独り歩きしている状況で、その金融機関の経営側の理解は、新聞や業界雑誌で読んだ程度の知識しかなかった。FinTechの本質はとても広く、そして深い。経営層の不安だけが増長していき、ITベンダーやSIerに聞いたり概要について説明を求めたりしても、さっぱり理解できていない様子であった。

 それもそのはずで、ITベンダーやSIerは自らの商売になるという視点でFinTechに興味を持っている。その方向に沿ったピンポイントでの解説しかしない。しかも、概要といっても彼らの立ち位置によって、内容はさらに千差万別となる。肝心なことに、そうした金融機関に出入りする業者自身もまた、FinTechについて深く理解している人は、残念ながら多くはいなかった。

 少し前に筆者が米国財務省の関係者に聞いた話では、金融業を当局が保護しなければ生きていけない可能性がある。そういう意味で、金融業は“絶滅危惧種”という存在なのだという。ハーバードビジネスレビュー誌でも、「今後新たなサービス構築やイノベーションを起こせない場合、既存の銀行の約92%は10年以内に世の中から消滅する」と予想している(引用元)。

 こういう状況から、この金融機関の経営側は「FinTech対策プロジェクト検討会」を早急に発足させた。ただ、メンバーに選任された職員は早く成果を出さないといけないという状況に追い込まれた。

 まず、この金融機関の基幹系システムを担当していた大手ベンダーと検討を始め、「自社にとって、どうやってすぐにFinTechを導入し、成果を出すか」という議論で、すぐに立ち往生したという。出席者全員の共通認識となるべきFinTechの考えや論理がバラバラであったからだった。

 FinTechを定義しようとしたが、これも無理だった。そこで、自社にとって劇的な収益に反映できる事象を考え、この方向で議論が進んでいった。

 すると、FinTechの言葉のいう呪縛から逃れられたせいか、いつの間にか対策プロジェクト検討会のポイントが次のように変わっていった。

  • 「地方創生対策」
  • 「収益向上対策」
  • 「次期東京オリンピックにおける貢献度アップ対応」

 こうした試行錯誤の結果、今ではFinTechの「F」も出てこない状況である。上の3つのカテゴリーにおけるこの金融機関の対策について、ベンダーと共同提案という形で検討結果が先日発表された。

 筆者がその内容を拝見すると、筆者の理解しているFinTechらしい企画案は1つか、2つしかなかった。いずれもFinTechのスタートアップ企業に資金を提供(多数の地方金融機関が関与していたので独自提案ではない)し、その見返りとして事業参画や新しいツールを導入し、自社で試行し、他に契約を結んでいない金融機関よりも早くその成果を得られるという目論見である。

FinTechは“打ち出の小づち”?(写真はイメージです)
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