メモリ主導型コンピューティングでたくさんデータを使うと、どうなるか?「ムーアの法則」を超える新世代コンピューティングの鼓動(1/2 ページ)

データ爆発を迎えたこの時代に、ITの抱える課題を解決する方法の1つがコンピュータのアーキテクチャに変えることです。今回はメモリ主導型コンピューティングによって実現されるかもしれない未来を紹介します。

» 2017年02月03日 11時00分 公開

 本連載で紹介しているメモリ主導型コンピューティングは、次世代の不揮発性メモリを使用した階層構造のない記憶領域において、フォトニクス技術を使用した光伝送によって距離の制限を克服し、広大なメモリ空間を得ることができます。このメモリ空間は電源を切っても内容が失われず、永続化された一次データとして使用することで、CPUを汎用ではなく用途特化型にすることができます。不揮発性メモリ、光伝送、用途特化型コアによって大幅に消費電力を削減し、一次データを直接操作できることで無駄なCPU時間を削減して処理を高速化します。

 このアーキテクチャは、大量のデータへの高速かつさまざまなアクセスがランダムに発生する用途に特に効果的です。今回はメモリ主導型コンピューティングによって実現されるかもしれない世界を紹介しましょう。

希有な病への対抗に“光”

 まずは医療です。健康や病気の予防などへの関心は高く、テレビでもよく取り上げられます。番組では、例えばインターンが症状から病気を予測しながら特定していくシーンや、ドラマでも細部に見られる症例から病名を特定していく様子が描かれます。

 現代の医療診断は、基本的に目の前に見える表面的な症状と、「一般的な患者」の違いを比較して結論が出されます。比較のために、特定の数値やレントゲンなどによる体内の状態、音などの多くの情報を利用しますが、あくまでも「いま見えている情報」が比較対象になります。したがって、表面に出てこない症状を伴う疾病は特定しにくく、発見が遅れることになります。

 そこで、もし過去のあらゆる健康記録や医療記録を調べ、さらには原因や因子を特定するために、個体から地球レベルまでの人口全体で環境やゲノム、実際に現れる症状を全て分析できたらどうでしょうか。上述のテレビドラマでも、インターンが患者の家庭環境やゴミ箱の中身まで調べ上げるシーンがありました。つまりこれらの情報は、表面には現れていない原因や因子を探ることに役立ちます。

 メモリ主導型コンピューティングの広大な不揮発性メモリによる記憶領域があれば、このような細部にわたる情報を全て保持し、検索できるようになります。膨大な情報の組み合わせから病気を予測したり、正しい診断を下すまでの時間を大幅に短縮したりでき、特定の病気の発生を未然に抑制することも可能になるでしょう。

メモリ主導型コンピューティング より多くの情報からより正確な診断が可能になります

 患者一人ひとりの過去の医療記録は、健康記録や遺伝子情報から地方や文化の歴史に至るまで、他の何百万もの記録と比較していくことで、掘り下げられるようになります。特定の因子を持った一握りの人々にだけ発生するような疾病を発見することも容易になるかもしれません。もちろん患者自身が世界の医療情報を利用して、個別化された治療法をより適切に発見できるでしょう。

 こうした効果を実現するためには、個人情報の保護やセキュリティ対策をいった課題を伴いますが、より多くの情報を保持し、それをより広範に、かつ、高速で検索できることによって、ユーザーはよりパーソナライズされた正確な結果を手にできます。

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