登場以来、私たちの生活を劇的に変えたモバイルとクラウド。この2つのトレンドは、ビジネスの世界をどう変えたのか。
この10年で私たちの生活を劇的に変えたものといえば、モバイルとクラウドだろう。この2つのトレンドは、日々の生活から時間や場所の制約をとりはらい、そのおかげで私たちはいつでもどこでも必要な情報が得られるようになった。
さらに大きなモバイルとクラウドの恩恵を受けているのが、企業のビジネスシーンだ。この2つのトレンドは今、企業のビジネスプロセスを変え、大きなパラダイムシフトを巻き起こそうとしている。
企業はこれからモバイルとクラウドの価値をどのように捉え、自社のビジネスにどのような形で取り入れていけばいいのか――。エンタープライズ編集部主催の勉強会、「デジタル改革塾」の斎藤昌義氏の講演から読み解く。
「クラウド」と「モバイル」は、カテゴリーこそ異なるものの、相互に深く関わり合っている。この2つのテクノロジーが登場したことで、世の中における『ITの価値』は大きく変わったという。
「クラウドとは何か」を正しく理解するためには、「情報システムの構成」を理解することが重要だと斎藤氏。情報システムは、「インフラストラクチャ―(インフラ)」が土台にあり、その上に「プラットフォーム」が乗り、さらにその上で「アプリケーション」が動くという3層構造になっていると説明する。
最も上位にあるアプリケーションは、特定の用途を実行するために作られたシステムだ。例えば、生産管理や販売管理という業務のために作られた生産管理システムや販売管理システムなどがそれにあたる。
アプリケーションを動かすには、データを管理する仕組みや通信、セキュリティを管理する仕組みなどが必要になる。こうしたデータベースや通信機能、セキュリティの機能は、あるアプリケーションのためだけに「専用に作り込む」必要はなく、異なるアプリケーションでも共通に使える。この共通に使える機能を備えたソフトウェアを総称して、「プラットフォーム」と呼ぶ。WindowsやAndroid、iOS、Linuxなどのオペレーティングシステムは代表的なプラットフォームといえるだろう。
アプリケーションとプラットフォームはソフトウェアだが、これらのソフトウェアを動かすためには「土台」となるハードウェアが必要となる。そして、ハードウェアを動かすには、電力なども必要だ。ハードウェアや電力など、付帯する設備、建物までを総称して「インフラ」という。
斎藤氏は「情報システムは3つの階層によって構成されている。クラウドを理解する上では、このことをしっかりと押さえておくべき」と強調した。
それでは、情報システムの階層構造とクラウドとの関係はどうなっているのだろうか。斎藤氏は、「アプリケーション、プラットフォーム、インフラという情報システムの各層をネットワーク経由でサービスとして提供するのがクラウドコンピューティング」と説明した。
斎藤氏によれば、従来、企業にとってコンピュータとは「自社で持つのが当たり前」のものだった。ところが、巨大なデータセンターにコンピュータの機能や性能を集約して、ネットワーク経由でコンピュータのさまざまな機能や性能を「必要なときに」「必要な量だけ」使わせてもらう形態が登場した。具体的には、CPUの能力を「何時間分」というような、使用した量に応じて費用を支払うスタイルだ。「従量課金がクラウドの利用形態」だという。
クラウドによって、企業にどのような変化が起きるか。例えば、従来ならサーバを調達するのにさまざまな手続きやセットアップを含めて2カ月から3カ月の期間がかかっていた。その上、企業がハードウェアを調達(購入)すれば、それは資産化されるので、計上などといった経理上の処理も必要になる。
ところがクラウドなら、従量課金なので「経費」になり、必要に応じて減らすことも増やすこともできる。企業にとってはTCOの大幅な削減が可能になるわけだ。さらに、クラウドなら用意されたメニューからサーバの機能などを選んでいくだけで、必要なシステムを素早く構築できるというメリットもある。
ソフトウェアの設定だけでインフラを設定したり、構築、調達したりできる技術の総称を「SDI(Software Defined Infrastructure)」といい、これが、まさにクラウドコンピューティングを形作っているといえるだろう。
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