ひまわり海洋エネルギー社内にあるセキュリティオペレーションセンター、通称「SOC」はしゃれたデザインの部屋だ。会社が保有している技術が今後の世界のエネルギーバランスを左右しかねないために、経営者がセキュリティ機器の導入とともに奮発した。さらにCSIRTを機能させるために他社からも人材を引き抜いたようだ。
ここのSOCの主の1人、深淵大武(しんえん だいぶ)はCSIRTの役割の1つ、リサーチャーとして、自社に導入されたセキュリティセンサーの異常状況や、世界のサイバー事案などを常に監視して分析している。
本師都明はSOCに立ち寄り、年齢の近い深淵に様子を聞く。
「どう? 何か問題出ていない?」
深淵はディスプレイから顔を離さずに答える。
「問題があったらインシデントマネジャーに報告している。そこからメイに報告がないのだったら、問題はないということだ」
メイは思う。
――もう、この人、苦手だわ。もう少し話すのに気遣いはできないものかしら。それに、何? この部屋。明かりを暗くしちゃって。秘密基地? 厨ニ病? 一体この人、家に帰っているのかしら?
ブチブチ文句が口に出そうになったメイは、一呼吸おいて答える。
「それだったらいいわ。何かあったら教えてね」
メイはさっさとセキュリティオペレーションセンターから脱出した。
CSIRT執務室といっても特別なものがあるわけではない。ごく普通の事務室である。
セキュリティオペレーションセンターから帰って来たメイはドサッと自分の椅子に沈み込み、ぼやく。
――もう、なんだっていうの大武のヤツ。ぶっきらぼう過ぎるわよ。まぁ、人と話すよりシステムが吐き出すログを見ている方が好きという変わり者だから仕方ないのかもしれないけど。もう、このCSIRT、コミュ障ばかりで疲れるわ。しかもあんなに部屋を暗くして。たまーに取る休日は沖縄でダイビングしているらしいけど、沖縄の海ってもっと明るいはずよ。スクリーンセーバーでイルカを表示してるけど、あんな暗い部屋だとイルカも寝るわ。
メイの憎まれ口を遮断するようにスマホが鳴った。発信者はインシデントマネジャーの志路大河(しじ たいが)だ。
メイの顔に緊張が走る。
「はい、本師都です」
「メイか。ちょっと妙なことが起きている。こっちに来てくれ」
志路の有無を言わせない口調に身体がこわばる。
「分かりました。すぐ行きます」
――もう! 今、セキュリティオペレーションセンターが「何もない」っていってたじゃないのー。大武のやつー。
メイは足早にインシデント対応部屋に入った。
(第1話後編に続く)
イラスト:にしかわたく
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