CSIRT小説「側線」 第12話:安全な製品(後編)CSIRT小説「側線」(1/3 ページ)

インシデント対応をいっとき離れ、温泉に繰り出したCSIRT。湯船で気分がほぐれたのか、コワモテに見えたメンバーたちが、普段は見せない仕事の本音や弱音を打ち明け始める。その中身とは一体……?

» 2018年11月16日 07時00分 公開
[笹木野ミドリITmedia]
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この物語は

一般社会で重要性が認識されつつある一方で、その具体的な役割があまり知られていない組織内インシデント対応チーム「CSIRT(Computer Security Incident Response Team)」。その活動実態を、小説の形で紹介します。コンセプトは、「セキュリティ防衛はスーパーマンがいないとできない」という誤解を解き、「日本人が得意とする、チームワークで解決する」というもの。読み進めていくうちに、セキュリティの知識も身に付きます


前回までは

皆で温泉に繰り出すことになり、久々の休みにはしゃぎ気味のCSIRT一行。温かい温泉で気分がほぐれたメンバーは、インシデント対応の際とは打って変わり、普段は見せたことがなかった互いの本音や弱音を打ち明け始めたのだった。

これまでのお話はこちらから


@宿

Photo 鬼門明徴:プログラムの作りや機械語に興味を持つ。優秀ではあるが、オタクな性格。システム部が作ったプログラムの欠陥をよく見つけてしまうため、孤立することも多い。ソリューションアナリストからは煙たがれ、独自の世界で生きるリサーチャーに憧れている。実家はお寺。占いにも造詣が深く、女子にモテるが、守社からはパシリ扱いされている

 鬼門明徴(きもん めいちょう)は、女性陣相手に占いを行っている。

 羽生(はぶ)つたえが真っ先に飛びついた。

 「ねぇねぇ、やって! 恋愛運!」

 「はいはい、それでは、生年月日とお名前フルネーム、両親のフルネーム、出身地、血液型、学歴……」

 「細かいのねぇ?」

 「ええ、それだけ集めないとできないんですよ。ちなみに、つたえちゃん、Webの占いってやったことある?」

 「あるわよ」

 「その時、同じような項目入れなかった?」

 「うん、入れたけど?」

 「あれ、気を付けた方がいいよ。入れたデータはマーケティングに使われているはずだから。特に女の人は、占いサイトだと、正確に占ってほしいのか、正直に個人情報をそのまま入れるからね。業者にとってみれば、おいしい情報収集法だよ。占いは、誰でも納得できるような回答を適当に返しておけば、大抵の人は納得するからね」

Photo 羽生つたえ:前任のPoCの異動に伴ってスタッフ部門から異動した。慌ててばかりで不正確な情報を伝えるため、いつもCSIRT全体統括に叱られている。CSIRT全体統括がカッコイイと思い、憧れている

 「えー、そうなの? 確かに正直に入れたわ。結果もまぁ、そんなもんかって」

 「夢を壊して申し訳ないけど、占いの回答って、その人を知っていればワケないんだよ。ヒアリングや相談の内容からその人が言ってほしいことを察知して、『今はこれこれでダメだけど(恋愛や仕事など、何かダメなことがあるから相談している人が大多数)、こうすれば(あたりさわりのない対策)きっとうまくいくよ(本人もうすうす気付いているが、誰かから背中を押してほしい)』のパターンで、ほとんどの人が納得するんだよ」

 「何それー、確かにそんな感じの回答だったけど。ちょっとがっかりだわ。マーケティング資料をタダで提供する代わりの占いサービスなのね。オトナってずるーい」

 ――「つたえも十分オトナなんだけどな」という気持ちを抑えて明徴が原則守社(げんそく すず)に聞く。

 「守社さんもやってみます?」

 「結構! お断り!」

 守社はピシャリと答えた。

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