ユビキタスをμチップで先導する日立製作所。2004年はシステム基盤となるBladeSymphonyを発表、ほかにもケータイ向けのキメクル、オンラインゲームのHUE設立など幅広い展開をしてきた。フロントからバックまでに取り組む同社からは、何が学べるのか? 来るべきユビキタス社会への考察などを古川氏に聞いた。

Harmonious Computingを提唱し、uValueというユビキタス社会に相応しいコンセプトを掲げる日立製作所。2004年の日立製作所(以下、日立)は、7月にシステム基盤となるサーバソリューション「BladeSymphony」を発表、ストレージでは、サンライズユニバーサルストレージプラットフォーム(サンライズUSP)を9月に日米同時発表、ミドルウェアではJP1、Cosminexus、HiRDBなどをアップデートしている。日立が強みとするのは、IT専業ベンダーとは異なるグループ会社がこれまで培ってきた多業種へのソリューション展開。2005年はBladeSymphonyを基に広く展開していくという。

エンターテインメントグリッドを重要視

ITmedia ハンビットユビキタスエンターテインメント(HUE)の設立発表に、改めてすそ野の広さを思い知りました。2004年は7月のBladeSymphony以降、数々のサービスが発表されましたが、日立の変革を象徴するひとつでしょうか。

古川 ハンビットのインパクト程度で驚いてはいけません。今後、さらに大きな発表を行っていきます。

 ハンビットの発表には、フロントエンドとしてオンラインゲームが今後どのようになるかという観点もありますが、バックエンドを支える基盤に対し、どのように取り組むべきかという視点が欠かせません。日立としては、ほかでもなくBladeSymphonyが核となります。

 東京ゲームショウでも動向を再確認しましたが、ADSL以上のインフラになってこそ、オンラインゲームは十分にスピード感を得ることができるようになったといえます。

 現在ではサイエンスグリッドとビジネスグリッドが政府中心となって開発や試行を行っています。言うまでもなくこれらは、遠隔地からの集中を分散させるというシステムです。日立では、これらの更なる新展開として「エンターテインメントグリッド」という見方を提唱したいです。オンラインゲームでもビジネス利用と同じく、もしかしたらそれ以上のサーバ集中が予想されます。ミッションクリティカルな基幹が必要になることが明らかなわけです。フロントエンドサービスは何であれ、バックエンドを支える基盤として、いよいよ日立の出番がきたと感じています。

 そして動向として注目しておきたいことは、昨今では、サービスの多様化によってビジネス利用だけに目を向けていると、知らない領域で市場形成が進んでいるという状況になってしまいがちです。

ユビキタスへ向けてアクセス動向の変化を捉えるべき

ITmedia ユビキタスは個人がサービスの中心と言われていますが、サービス基盤としての在り方をどのように捉えますか。

古川 ユビキタスでは、最終的に個の穏健となるサービスが重要視されます。2004年、日立はuValueのコンセプトでユビキタスに通ずる顧客重視なコンセプトを掲げました。もちろん個だけの重要視でなく、基幹となる企業、公共といったバックエンド形成については前述の通りです。そして、現在でもケータイにおける高速インターネットアクセスの実現、それに伴うサービスの整備が急務でしょう。

 従来と見比べてみれば、変貌していることがとてもよく分かります。メインフレーム世代の基幹へのアクセス形態は、ほとんどが専用ターミナルからでした。それがPCからのアクセス全盛となり、いまやケータイなどからのアクセスが増えている状況です。形態が変化していることを見据え、アクセス元の動向を的確に捉えることが重要です。より顧客重視な価値観でなければ気づかないでしょう。日立自身、uValueを掲げる上で内部変革を行うといった狙いもありました。自身が変わらなければ体制も整わないわけです。

 ユビキタスの成果を発表する2005年の取り組みとしては、愛知万博のパビリオン出展が挙げられます。現在販売中のカード状の前売り券には、0.4mm角のチップと数十ミリのアンテナが左右に広がっているμチップが埋め込まれています。

ITmedia 先ごろ発表されたμチップの書き換え可能な展開は、どのような用途の広がりがあるのでしょうか。

古川 行程ごとに情報付加ができるようになります。時系列的なアプリケーションに対応します。もちろんセキュリティを考慮すれば、書き換え不可としたいケースもあります。使い分けをしていけばよいだけでしょう。そしてμチップ自体、128ビットの容量を持っていることからも、用途への期待が大きいです。

ITmedia BladeSymphonyの背景にある日立グループ各社統合という点に興味があります。背景事情を教えてください。

古川 日立グループとは何なのか? と問い、IT専業ベンダーではなく家電や物流、電線などさまざまな事業があることに価値観を見出すべきと考えた結果です。コンシューマからビジネスまで幅広い取り組みは、ITの強みとして活かすべきだと考えたわけです。


グループ会社がこれまで築いた基盤は日立が持つIT専業ベンダーにはない強み、と古川一夫氏

 日立は2003年から委員会と設置会社として組織の枠組みを変えました。グループとしてのガバナンスをしっかりとして打ち出すことになったのです。そして、各グループの連結で物事を考えるという土壌が整ってきたことも大きいでしょう。これらの連結による業界への影響力、それがほかのベンダーにはない強みといえます。uValueでの業種を問わない展開も追従を許さないと考えています。そして、uValueはシナジーを生み出すことが重要であり、BladeSymphonyのように特定しないプラットフォームが必要だったという背景もあります。ミッションクリティカルな基幹利用という基盤を抑え、特定業種に限定されないものが必要と考えました。

 昨今のオープンスタンダード化動向には、行き過ぎた面があると考えています。その傾向のひとつとしては、顧客不在のソリューション提供になっているということです。従来、20年ほど前の日立でも、すべて垂直型なシステム構築が理想という発想ですべて自社のシステムを提案していました。しかし、最近では他社からもベストブリードなものを採り入れるといった構築手法が当たり前となってきています。オープンスタンダード化はある意味ではすばらしかったのですが、誰が一人称で面倒を見てくれるのか分からないという不在な状況になっていたわけです。

ITmedia 更なるロードマップがあれば教えてください。

古川 日立にとって、2010年が大きなターゲットです。日立創業の100年になる年だからです。2010年に向けて、2004〜2005年、足固めをしていくという年にしたいです。

読書をしたいと考えていますね。普段は、じっくりと読むためにまとまった時間が取れないので、この機会にゆっくりと読みたいです。

[ITmedia]

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