ストックオプション制度に対し、後手に回る日本の税制特別企画:ストックオプション再考

» 2001年08月22日 12時00分 公開
[杉山靖彦,@IT]

1997年の問い

 「そんな想定に対する回答はできません」

 これは、筆者が平成9年分のストックオプションの確定申告について、「株価がストックオプション行使後に下落した場合の課税はどうなるのか」という質問に対する当局から得た回答です。それから3年後それは現実になりました。

 平成12年の春を境にIT関連の株価は軒並み下落し、ストックオプションを行使したものの納税が不可能な納税者が日米を問わず、全世界で発生しました。

 筆者は、当局からの上記の回答を得たとき、大蔵省(当時)は株価が下落することも想定できないのかと愕然としました。ストックオプションの一時所得と給与所得に関する訴訟問題は、IT業界では有名なお話ですが、これらもすべてを想定した準備や先手が打つことができない日本の行政を象徴しているといえます。

 事実、平成12年分の確定申告を行った今年、さまざまなルートからストックオプションの行使をしたものの、納税ができないという問題が多発しているという話を耳にしました。

アメリカの納税者救済策

 そのような中、米国内では早くも、ストックオプションの行使に伴う巨額の税負担に苦しむ納税者を救済する動きが出てきています。

 民主党の副大統領候補だったリーバーマン上院議員らが課税免除などの救済方法を準備しはじめたというのです。法案がどのようになるのかはまだまだ不透明のようですが、問題が如実化した3、4カ月後に動きが出てくるあたりがスピード重視のIT業界で米国の強みが発揮される所以でしょうか。

 米国では、ストックオプションの種類によっては、取得した株式を1年以上保有することによって税率の低い長期のキャピタルゲイン課税(最大20%)が適用されることもあって、節税のためにストックオプション行使によって取得した株式を長期間保有する例が多かったようです。

 しかし、その後株価が急落、含み益を失うだけでなく、すべての株式を売却したとしても納税ができないという例が続出したようです。

 リーバーマン上院議員らが準備している法案は、課税額を昨年の権利行使時点ではなく確定申告の期限である4月15日の株価で算出するというもののようです。

 この方法であれば、たとえ年を越えて確定申告期限までに株価が下落したとしても対応でき、納税可能額に対する実質的な課税が行われるため、非常に評価できる方法であるといえます。

得られない回答

 一方の日本に目を移すと、ここ1、2年急増している株式公開に伴ってストックオプションの行使をする経営者が増えていますが、彼らはストックオプションを行使したものの、インサイダー取引による規制や、経営問題上、なかなか売却が困難な状況にあります。

 しかしながら、納税は待ってくれません。翌年の3月15日にはストックオプション行使に伴う多額の納税がやってきます。ストックオプションの付与を受けたものの、行使するも地獄、しなければ権利喪失。さて、財務省はいったいどのような回答を出してくるのか? ちなみに、この質問に対する回答はまだ得られていません。

 一時期に比べて、この日本ではストックオプションの制度を導入する企業が減少しているともいわれています。税制が伴わなければ、企業側がいくら改革を行っても導入ができず、結局単なるお飾りになってしまいます。

Profile

杉山 靖彦(すぎやま やすひこ)

1967年生まれ、早稲田大学卒。1994年マイクロソフト株式会社入社。マーケティング部門でMicrosoft OfficeとPowerPointのプロダクトマネジャーとして、MacOffice4.2、Office95、Office97のリリースを担当。1997年8月退職後、コンサルタントとしてパソコン業界に特化した杉山会計事務所(所在地:東京都文京区)を立ち上げ、プロダクトマーケティングのコンサルティングや著作権保護活動にも取り組む。また、各種パソコン専門誌のライターとして、業務ソフトやOffice関連の連載を抱え、精力的に執筆活動も展開している。著書に『Excelでこんなに簡単に資金繰り表が作れる』(明日香出版刊)などがある。

メールアドレスはyasuhiks@kikimimi.ne.jp


参考

連載 知っててトクする株式講座

第2回 ストックオプション制度の落とし穴 (2000/06/19)

IT Business フロントライン(特別編-2)

「マイクロソフト日本法人ストックオプション利益申告漏れ」報道にみる税制問題(2000/8/29)


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